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“変化球”でみつかる人生のチョイス 『お探し物は図書室まで』 #594

「人間万事塞翁が馬」とは、人生における幸不幸は予測しがたい、いたずらに一喜一憂することなく人生に対処せよ、という意味のことわざです。

人生の袋小路に迷い込んでしまった人が、一冊の本をきっかけに変わっていく姿を描いた小説『お探し物は図書室まで』は、その「人間万事塞翁が馬」を思い出させる本でした。

<あらすじ>
小学校で行われているエクセル教室に参加した朋香。教本を探すため、小さな図書室を訪れると、司書におすすめされたのは『ぐりとぐら』だった。絵本を読んで「かすてら」をつくってみることにするが……。

憧れの町で就職したけど、宙ぶらりん。本に習って料理をしてみたものの、いまいちパリッとしない。なにかやってみたいけど、なにをすればいいのか分からない。そんな朋香が出合ったのが、『ぐりとぐら』です。

『ぐりとぐら』ってご存じですか? 主人公は2匹の野ねずみです。お料理と食べることが大好きな2匹が、ある食べ物をつくるお話です。

短い物語だし、ロングセラーの絵本だから読んでいる確率も高いのに、物語の中で答えはバラバラ。卵焼きやケーキ、ホットケーキなどなどが出てきますが、正解は「かすてら」です。野ねずみのつくる「かすてら」に心引かれ、朋香も挑戦してみようとするのですが。

ふだん、朋香は料理をしていません。菓子パンやカップ麺のお世話になってばかりという食生活です。

「かすてら」をつくろうと思い立って、まずはネットでレシピを検索。簡単そうなレシピを選んでスタート。

中火ってどれくらいよ?

粉をふるうのとふるわないので違いはあるの?

料理をしない人間には、分からないことが多いんだよねーと、自分を見ているような気がしてしまう。何度も失敗して、ここが違うのか? こっちの工程を変えてみようか?と試行錯誤を始めます。

で、人間って単純なもので、夢中になることがあれば、日々のモヤモヤを考えている時間なんてなくなるんですよね。

エクセルの参考書を探していたはずが、絵本に出合い、かすてらをつくっている朋香。「これじゃない」と捨ててしまうこともできますが、みつけたものを拾い上げることで、起きる小さな変化が見どころです。ぐりとぐらだって、最初から「かすてら」を目的に森へ行ったわけではなかったのだから。

ほかにも、ニートの男性や、リタイアしたおじさんなど、全部で5人の「探しもの」に、司書の小町さんが“変化球”で応えてくれます。そして、読んでいるわたしにも、「次に読みたい本」への道を拓いてくれました。

著者の青山美智子さんは、47歳で小説家デビュー。これが5冊目の本だそうです。小説を書くのは「コスプレ」みたいなもの、と語っておられます。

探していたわけではなかったところから、フッとみつかる答えらしきもの。自分の「納得」さえあれば、次の一歩への覚悟が決まる。出合ったものを玉とするか、ゴミとするかは自分次第。目標に対して意固地になるより、柔軟性がほしい。

日常生活でも、仕事でも、自分で「納得」して踏み出したいなと思ったのでした。

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