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マッドな博士がつくり出す珍妙な世界 『博士の異常な発明』 #390

SFといえば「猫」に続いて、「マッドな博士」を挙げてみたいと思います。

「マッドな博士」は数々の発明をして、結果、世の中を混乱に陥れます。パッと思い浮かぶのは「フランケンシュタイン」。アニメ『怪物くん』の影響もあって、「♪ フンガーフンガー フランケン~」の、身体が大きくて恐ろしい出で立ち、でも中身はちょっとマヌケという姿を思い浮かべてしまう。

こうしたイメージは、ボリス・カーロフの映画「フランケンシュタイン」によって出来上がったのだそうです。

ケネス・ブラナー監督版の「フランケンシュタイン」では、ロバート・デ・ニーロが演じています。

ですが、原作の小説はもっと繊細。怪物という「生命をつくり出す」行為に対して、創造主は戦き、逃げ出してしまうくらいです。これは「神に対する反逆」として捉えられていたから。ちなみに、ホントは怪物には名前がなく、つくり出した学生の名前がヴィクター・フランケンシュタインです。

「マッドな博士」は確かに人間たちを恐怖に陥れるのですが、爆笑の渦に落とし込む博士だっています。清水義範さんの短編小説『博士の異常な発明』に登場する「マッドな博士」は、愛さずにはいられない人たちでした。

タイトルはもちろん、スタンリー・キューブリック監督のブラックコメディ映画「博士の異常な愛情」のパロディです。清水さんの作品に流れるパロディ精神と絶妙なブラック加減にはいつも笑わされています。でもこの本では、映画に負けていない超絶技巧な発明に、笑いが止まらなくなりました。

たとえば唐の時代に活躍した袁孫という学者。時の皇帝がスポンサーとなり、皇帝を楽しませるためのものを次々に発明します。現在でいうロボット、コンピューター、映画などの説明がいちいち凝ってます。

無料提供の品(ただでくれはるものなんて)
所詮無益無用の品(どうせたいしたことないって)
我言明の時あり(ゆうてたんですぅ)

なんて漢詩風の言葉遊びもあり。おもしろいことは淡々と語る方が、ユーモアが倍増するのかもな、と感じました。

多数のジュブナイル作品を生み出してきた清水さんは、一方でパスティーシュ(模倣)の名手としても知られています。

司馬遼太郎や阿佐田哲也の文体をまねた『蕎麦ときしめん』という本もあります。

前例を模倣して、新たな表現が生まれるという好例。

怪物を生み出したヴィクター・フランケンシュタインは、「マッドな博士」のひな形のひとつとなりました(ホントはただの学生で、“博士”ではないんだけど)。時を経て、無責任にユニークな物を発明する博士たちが登場したわけですね。歴史を知ることで表現も広がるのだなと思ったのでした。



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