見出し画像

アラサー女性の対立と断絶 『あのこは貴族』 #318

地方民だったわたしは、「東京」は日本ではないように感じていました。よく読んでいた林真理子さんのエッセイや小説で、「代官山ってなんかすごい!!」「キラー通り行ってみたい!!」と思っていたので、上京してすぐに友人とつれだって代官山に行ってみました。

東急東横線の代官山駅。なんだかボロッちい駅舎を抜けると、なーんもないロータリー。まだGoogle マップなんてない頃なので、なにがどうなっているのかよく分からないまま、しばらく歩くと大きな幹線道路にぶつかりました。

いま考えると、たぶん旧山手通りだったんでしょうね。歩いても歩いても、マンションとビルばかり。たぶんお店がたくさんある方向とは逆に向かっていたのだと思います。わたしたちの雑貨屋さんは? CAFEは? 方向音痴のわたしたちは、とうとう一軒のお店にたどり着くこともなく、疲れて帰りました。

東京生まれの人にとって当たり前のことは、地方民にとっては未知の世界。自分の住んでいる日本とつながっているとは思えなかった、華やかな街。そこに降り立ったのに、夢を叶えることができなかったのです。

山内マリコさんの小説『あのこは貴族』には、東京生まれの箱入り娘・華子と、地方生まれのOL・美紀による対比が鮮やかに描かれています。

ハンサムな弁護士「青木幸一郎」をめぐる、アラサー女性の対立ではあるのですが。

この男、ただのクズでしょ!!!

という言葉を何度飲み込んだことか。特に華子の生活や行動は、わたしにとって子どもの頃見ていたキラキラ世界そのもの。ここは日本ですか!?と感じる「上流階級」の暮らしと、なんだかんだだらしない美紀の生き方に、グサグサと刺される感じがしました。

せっかく大学に受かったのに、お金がなくて通えなくなってしまう美紀。「上流階級」の男に鴨にされてしまう様子は、『彼女は頭が悪いから』の神立美咲を思い出してしまいました。

また、いま話題のNetflixオリジナルドラマ「愛の不時着」にも、上流階級が出てきます。場所は北朝鮮だけど。ニュースで伝えられる窮状とは大違いの豪勢な暮らしをしている箱入り娘は、やっぱり男に鴨にされそうになっています。

女は女というだけで「女という商品」にされ、女同士にも出身地による断絶がある。地方出身というだけで味わわなければいけない劣等感。お金への執着。男に選ばれることへの喜び。『あのこは貴族』は、そんな社会の歪みをエンタメとして楽しめる小説です。

インターネットが発達して、世界はフラットになり、ナビアプリが登場。うれしかったんですよね。これで迷わなくなるだろうと思って。

でも、世の中はそんなに甘くない。

迷うんですよ。道にも、人生にも。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?