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“普通”のレールから外れてみたら居場所があった 『書店員X』 #534

この商品を、誰に、どう売るか。

多くの企業や、小売の現場で、たくさんの人が悩むこの問題に、わたしも毎日向き合っています。

こうしてnoteを書きながら、「どんな言葉でこの感動を綴れば届くのか」と頭を悩ませ、そしてお菓子に手が伸びる……。

2016年、盛岡駅1階にある「さわや書店フェザン店」が仕掛けた「文庫X」なる謎の本が30万部を超える大ヒットとなりました。出版業界で「小さな大書店」と呼ばれることもある「さわや書店」。フェアを仕掛けた方が長江貴士さんです。『書店員X』には、その裏側が綴られています。

「さわや書店」では末っ子扱いの長江さん。とある本を読んで感銘を受けたのですが、この本はこのまま売っても、手に取る人は少ないだろうと考えたそう。そこで表紙をオリジナルの手書きカバーで覆い、タイトルと著者名を隠すという前代未聞の試みを実施。表紙が、手書きのおすすめコメントに埋め尽くされた「文庫X」は、マスコミにも大きく取り上げられました。

その後も、「帯1グランプリ」や「ヨマネホンティ」といった企画で、本を選ぶ楽しさを広げてくれています。

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『書店員X』は当時の店長だった田口さんの無茶ぶりでスタートしたそうで、ホントに書きたいと思っていたのは第2章以降の「挫折論」(といっていいのか?)の方だそう。

優秀な学生だった自分をドロップアウトし、普通のレールから外れることを決断。引きこもりのような生活を送りつつ、それでも本なら好きだしなんとかなるかも?くらいの理由で本屋さんのアルバイトを始めます。そして田口さんにスカウトされて盛岡へ。業界の常識を打ち崩し、「名物書店員さん」と呼ばれるまでに、どんなことを考えていたのかが紹介されています。

ここで書かれている話をもっと深く掘り下げたのが『このままなんとなく、あとウン十年も生きるなんて マジ絶望』です。この孤独な時間が、長江さんを育てたのかなと感じる本です。

わたしは会社の新人研修に「帯1グランプリ」を取り入れて、一冊の本のコピーを書くトレーニングをしてもらっています。これまでに50冊以上の本の帯を作ってみて感じたのは、届けたい人との距離感でした。

「さわや書店」発の売る方も、買う方も、一緒に盛り上がれる企画力。それには感嘆しつつ、やはり「帯1グランプリ」という企画は、お客さまからの信頼を積み上げて来た書店ならではの企画だったようにも感じているのです。

本を読まない人たちが多いせいか、本選びで四苦八苦。コピー作りにまた悪戦苦闘。まだよく知らない先輩へのプレゼントにするため、インサイトの掘り下げにも迷う。

毎年、新人研修のプログラムを建てる頃になると、この本を開きます。

「この商品を、誰に、どう売るか」というマーケティングの第一歩に。変化の時代をしなやかに生きる術に。どちらの目的で読んでもピッタリですよ。

盛岡の「小さな大書店」と呼ばれた「さわや書店」。歴代の名物店長と書店員さんの本は、どれも本を売るエネルギーに満ちたものでした。


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