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日韓の12人の作家による、愛についてのおしゃべりが止まらない 『小説版 韓国・フェミニズム・日本』 #452

「ルビンのツボ」とは、デンマークの心理学者エドガー・ルビンが考案した多義図形のことです。背景は黒、図形は白で描かれていて、見方によって2人の顔にも大型のツボにも見えるというあれです。

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(画像はWikipediaより)

こういう「アハ体験」って、一度気づいてしまうと、「知らなかった」状態には戻れません。

チョ・ナムジュさんの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだとき、一番に思い浮かべたのは「ルビンのツボ」のことでした。積み重なる違和感に、一度でも気づいてしまったら。

指摘する声は止まらなくなる。

そのチョ・ナムジュさんはじめ、日韓の12人の作家による短編集が『小説版 韓国・フェミニズム・日本』です。日本からは松田青子さん、西加奈子さん、小山田浩子さん、高山羽根子さん、深緑野分さん、星野智幸さんが参加されています。

相変わらずチョ・ナムジュさんの切れ味はするどいなーと思ったのが「離婚の妖精」。男性作家はフェミニズムをどう描くんだろうと思ったら、度肝を抜かれたのがパク・ミンギュさんの「デウス・エクス・マキナ」。どの小説も予想を超えてくるバラエティセットといえます。

日本で「フェミニズム」というと、ノーメイクでナチュラルヘアの“がんばってる”感満載の人をイメージしてしまうんですよね。なんか、もう少し肩の力を抜いたところで話をしたい。そう考えるわたしにとっては、とても読みがいのある一冊でした。

先日、友人と韓国映画を観ていて気がついたことがありました。

「キョンジャなの?」

と、登場人物が電話を受けているシーンで、相手の声が聞こえないとき。「キョンジャ」が女性か男性か分からないということ。この映画は既婚者の男性が学生時代に旅した街にやって来て、電話をかけているシーンだったので、

「旅行して、いきなり女か!!!」

わたしはそう思って笑っていたんですけど、友人は分からなかったようで……。そりゃそうだ。

この問題は文字だけで描かれる文学も同じかもしれません。初出一覧を見ると、韓国の作家は書き下ろし掲載の後に修正稿を出している方が多いようです。「もっと練って、より深く、もっとおもしろく」ということなんでしょうか。最後の最後までねばって作り上げた作品ですもん。翻訳本には登場人物一覧をつけてもいいのかも。

韓国文学の本をいくつか読んでみて、日本の小説とは違う味わいが感じられました。たとえにクスッとしたり、よく分からんとなったり。海外文学といえば英語圏の本が多かったけれど、こうしてアジア文学の棚が広がっていくのは単純にうれしいです。

韓国の女性の「気の強さ」もいっぱい感じられました。かっこいいですよ。


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