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すべての働く人へ贈るバカの叫び 『店長がバカすぎて』 #526

「こんな会社、いますぐ辞めてやる!」

いまの会社に来てから3回辞表を書いたことがあります。最初に上司に渡した時に「紙の辞表なんて、初めて見た!」と言われたんですよね。いまの20代は、辞める時に辞表を書かないらしいと知った瞬間でした。

吉祥寺の書店に勤める「谷原京子」は、店長が嫌で、社長が嫌で、営業マンが嫌で、何度も「ガルルッ、辞めてやる!」と叫んでいます。実際に辞表も準備するのですが、その度にタイミングを逃してしまうんです。

なぜ、働くのか?

「幸せになりたいから働いているんだ」

早見和真さんの小説『店長がバカすぎて』は、28歳、独身、契約社員として働く「谷原京子」の、本への想いと業界への憤りがつまった一冊でした。

わたしは子どもの頃から本ばかり読んでいましたが、「本屋さんになりたい」と思ったことはありませんでした。図鑑や偉人伝、民話が好きで、「世界少年少女文学全集」的なゴッツい本にも手を出していたのに。

理由は簡単で、わたしが住んでいた町に、本屋さんがなかったから。

小学生の時は自転車で30分くらいの距離にある図書館に、毎週末通っていました。学校の図書館とは違って、公立の図書館の司書の方はカウンターの中にいるだけなので、放っておいてくれるんですよね。それも居心地が良かったポイント。

就職して一番うれしかったのは、本屋さんで本を買えば、一生「自分のもの」にできることでした。2週間後に返さなくてもいい!! そんな当たり前のことに感激しました。

わたしが「本を買う」という喜びに目覚めた頃から、本を巡る状況は悪化の一途をたどっていて、出版社も、取り次ぎも、そして書店も、「厳しい」という言葉しか聞かない。「谷原京子」なんて1000円にも満たない時給で、「お客様は神さま」と暗に主張する常連客の相手をし、出世競争に必死な店長と戦うんです。

心折れるわー。

それでも、「谷原京子」自身が本好きだから、その現場を離れたくなかったのだとも思えます。だからこそ、好きなもの、やりたいことがある人が、「やりがい搾取」に遭わない社会を。どうか、お願いと思ってしまう。

うっかりすると下流の妬みとひがみになりそうな話を、カラリとしたユーモアで巻き取っています。本好きの方には共感ポイント多しな一冊です。

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