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ホンモノの香り高きユーモア 映画「ブラック・クランズマン」 #342

家で食べるチューブ式のわさびに慣れていると、おそば屋さんやお寿司屋さんで「ホンモノ」のわさびを食べた時、感動しませんか?

来た来た来たー!!!

となる、ホンモノ感。ツンと鼻に抜ける香りと、口の中に広がるまろやかな味。あぁ、これがリアルなわさびなのだな、と感じます。

ホンモノだから素材との相性もいい。おいしさにごまかしがない気がするのです。

スパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」を観て、リアルわさびの香りを思い出しました。

<あらすじ>
1979年。アメリカのコロラド州コロラドスプリングスで、初めての黒人刑事として採用されたロン。「危険」と判断された黒人学生自治会の集会に潜入し、活動家のパトリスと仲良くなります。ある日、白人至上主義の団体[KKK]のメンバーを募集する新聞広告を目にし、幹部と面会する約束を取り付けます。黒人刑事のKKKへの潜入捜査はうまくいくのか……。

第91回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、助演男優賞など6つの部門にノミネートされた映画です。最終的に脚色賞を受賞しましたが、作品賞に「グリーンブック」が選ばれたことにリー監督は憤慨。

「誰かが誰かを運転するたびに、僕は負けるんだ」

という言葉を残しています。うむ。ここでたとえに挙げられている映画「ドライビング・ミス・デイジー」は大好きな映画ですが、この回の作品賞については、リー監督に1票だなと思いました。

映画でアフリカ系アメリカ人の刑事ロンを演じたのは、ジョン・デビッド・ワシントン。デンゼル・ワシントンの息子です。ロンとコンビを組んで、KKKの幹部に会いに行くユダヤ系警官フリップ・ジマーマンはアダム・ドライバーが演じています。

アダム・ドライバーは、鬱屈した役か、妻に振り回される役がうまい俳優なんですよね。ジム・ジャームッシュ監督の映画「パターソン」なんて、彼のオタオタした感じがピタリとはまっていました。

独創的でかわいいしかない妻に振り回されていたアダム・ドライバーが、「ブラック・クランズマン」では新米のロン刑事に振り回されることになるのです。この時代、アフリカ系の人々の髪型はアフロが多かったようで、みんなフワフワ。もちろん、ロンもフワフワです。

KKKの幹部に呼び出されたものの、まさかフワフワのロンが会いにいけるはずもなく、身代わりに潜入することになったのがフリップです。2人1役を演じようという提案に、オタオタ。レイシストたちの軽口に、思わず本音が出そうになってオタオタ。彼らに怪しまれてしまい、という展開になります。

KKK=クー・クラックス・クランとは、WASP(プロテスタントのアングロ・サクソン人)の優秀性を説く秘密結社です。団員を「クランズマン」と呼んだことから、この映画のタイトルが付けられています。

白人至上主義団体で、アフリカ系はもちろん、アジア人やヒスパニックなどを攻撃対象にしているレイシストの団体なわけですが。その幹部に電話して、意気投合してしまうんだからすごい。

劇中、ロンがあれだけスラスラペラペラと黒人の悪口を言える理由は、日頃言われ慣れているからでしょう。

なんたる皮肉。

こういうシーンをサラリと描けるのは、監督がスパイク・リーだからだろうなと感じます。

これが白人の監督だったら、映画の中のフィリップのようにためらってしまうのではないでしょうか。実際、KKKの指導者デビッド・デュークを演じたトファー・グレイスは、撮影後に精神的不調に陥ってしまったのだとか。

ロンが電話で話している時、軽妙で真実味のある悪口に、周囲の白人警官たちはギョッとします。その姿に思わず笑ってしまう。

毒のあるユーモアは、ホンモノだからこそ出せる香りなのです。

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