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“次はきっと”がないとき、思い残したことはない? 映画「ぶあいそうな手紙」 #411

映画というマーケットにおいて、「老後の生き方」がテーマとなる作品が増えているように感じます。それだけ関心が高いということでしょう。この問題に頭を悩ませるのは日本や先進国というイメージがありましたが、ブラジルでも進んでいるのだそうです。

世界の高齢化率(高齢者人口比率)国別ランキングで、ブラジルは76位の9.25%。まだまだ大丈夫なんではと思ったら、12~17年の高齢者は、人口増加率の4倍半のスピードで増えているそう。かなりのハイペースですね。

日本でも「2000万円問題」が話題になりましたが、仕事をリタイアした後の人生をどう送るか。「次はきっと」がないいま、思い残したことはないか。

ブラジルの映画「ぶあいそうな手紙」を観ながら、そんなことを考えました。

<あらすじ>
ブラジル南部の町でひとり暮らしをしている78歳のエルネスト。視力をほとんど失ってしまったため好きな読書もできず、年金も十分ではないため暮らしはカツカツ。そんな彼のもとに、ウルグアイ時代の友人の妻から一通の手紙が届く。しかし手紙が読めないエルネストは、偶然知り合ったブラジル娘のビアに手紙を読んでくれるように頼む。手紙の代読と代筆のため、ビアがエルネストの部屋に出入りするようになるが……。

頑固で融通がきかない、でも教養はあるっぽいおじいちゃんのエルネスト。彼に頼まれて手紙を代読し、代わりに書いてあげることになるビアは、悪い男につきまとわれ、手癖が悪く、学もなく、仕事もない23歳の女性です。

エルネストの視力が弱いのをいいことに、ビアはあれこれ手を出してしまう。でもエルネストはそんなビアを追求するのではなく、「介護人」として仕事をしてくれるようにうまく乗せてしまうんです。

隣室のおじいちゃんとのジョークや、常連のレストランでのやり取りを見ていると、エルネストは決してコミュニケーションが苦手なタイプではないのだと思われます。ただ、彼はとても「閉じようとしている」感じがありました。

「年をとっても元気に挑戦したい」という人もいますし、そんな姿を描いた映画もあります。イギリスの83歳のおばあちゃんが主人公の映画「イーディ、83歳 はじめての山登り」がまさにそれでした。

イーディは「なにごとも遅すぎることなんてないさ!」という言葉に励まされて山登りに挑戦することにします。でも、イーディより5歳も若いエルネストにはそんな元気はなく、人生を「閉じようとしている」みたいで。

そんなおじいちゃんを揺り動かすのが、ビアの率直さです。

この映画は4月にブラジルで公開される予定だったそうです。それが延期となり、現在も目処が立っていないのだそう。世界で一番最初に公開されたのが日本。おかげで初めてブラジル映画に触れることができました。

メールや電話ではなく、「手紙」というところもとてもよかったです。時間をダイレクトに貫いてくるツールに慣れてしまったいま。手紙が生み出す時間差に、あらためて気がつきました。定型文を「鎧」にして、感情を隠してしまうことも。

「年をとっても元気に挑戦したい」って、みんながみんな思わなくてもいいんですよね。せめて思い残すことがないように生きたい。


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