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家族を超えた新しい生活スタイル 『あの家に暮らす四人の女』 #329

子どもの頃から「間取り」好きでした。隠し部屋や屋根裏部屋のある小説にはドキドキしたものです。クローゼットの扉を開けると、別世界につながっていたりしてね。

三浦しをんさんの小説『あの家に暮らす四人の女』には、そんな部屋はないのですが、ひろーい敷地に建つ大きな洋館には、「開かずの間」があるんです。ここで発見されたのは、桐箱に入ったミイラ!

浮世離れした母娘と、居候のOLふたりの推理が楽しい小説です。

東京都杉並区にある、古いけれど、だだっ広い家に住んでいるのは4人の女性。名前は谷崎潤一郎の長編小説『細雪』の登場人物からとられているようです。

・母の鶴代(60代後半):伊勢丹に行くのが大好き
・娘の佐知(37歳):刺繍教室を運営
・雪乃(佐知と同年代):OL
・多恵美(雪乃の10歳年下):OL

庭の離れには、山田さん(男性)が住んでいて、すべての雑用を引き受けてくれています。そのせいか、鶴代と佐知は文字通りの「家付き箱入り娘」で、かなり世間からずれています。

父親の記憶がない佐知は、桐箱から発見されたミイラが「河童」に似ていたことから、自分の父親は「河童」だったのか?と悩むことになる。

オイ……。

また、自分は自宅が仕事場なので、異性と何か月も話をしたことがないけれど、「外に出れば恋の相手は見つかるはず」と思いこんでいます。

オイ……。

4人の女性が共同生活を送るということで、『若草物語』や『細雪』のようなイメージがありましたが、ファンタジー要素とドタバタコメディ感が加わっていて、いい感じに裏切られました。

家族ではない4人の共同生活は、「シェアハウス」を思わせます。血のつながりや、家族という単位を超えた、新しい生活スタイル。それが古い洋館で繰り広げられるのですから、新旧が折り重なって、家の歴史が作られていくことを感じさせてくれます。

わたしは肉親や夫以外の「他人」と暮らした経験がありません。韓国留学中の下宿生活が、これに近いかもなーと思いながら読んでいました。もし、シェアハウスのようなところで暮らすのなら、この小説のような、年齢層が多彩なところがいいなと感じます。

同年代だとどうしても張り合う感じがでてきませんか?

矢沢あいさんのマンガ『NANA』でも、ナナとハチは仲良しだけど、混じり合えない部分を持っていました。

精神科医の名越康文さん曰く、「あなたの部屋は、あなたの心が作り出した作品」とのこと。誰と住むかによって、心もお部屋も変わるのかもしれません。だったら年齢層が幅広い方が、刺激と共感のどちらも得られそうだからです。


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