博物館級にドンカンな男の純情ストーリー 映画「私にも妻がいたらいいのに」 #517
スクリーンの中での存在感。どんな役にも体当たりで臨む演技力。
チョン・ドヨンという俳優は、一度観ると忘れられなくなります。最新作は、「君の誕生日」。2014年4月に起きたセウォル号の沈没事故によって、息子を失った家族の再生を描いた映画です。
夫婦役を演じたソル・キョングと初めて共演したのが「私にも妻がいたらいいのに」という映画です。「生きるのが下手な男」を演じさせたら右に出る者がいないソル・ギョングと、魔性が控えめだった頃のチョン・ドヨンが、とにかくかわいい映画です。
<あらすじ>
銀行に勤めるキム・ボンスの目標は、結婚すること。新年を前に、未来の妻に映像メッセージを残すほど、切実に憧れている。純情なボンスを見守るのは、塾講師のウォンジュ。だが、ボンスは彼女の存在に気づかず……。
パク・フンシク監督のデビュー作ですが、一番「純情路線」な映画なんじゃないかと思います。
ボンスとウォンジュの職場は同じビルにあり、生活圏も近い。お互いを意識しつつ、微妙にすれ違ってしまうふたりにヤキモキさせられます。ボンスの鈍感さは博物館級ですが、ウォンジュのアピールもヘタクソなんです。そこにキュンとする。
ふたりで飲むヤクルト、不器用に披露する手品、雨の降る夜道。
人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまったような、ドキドキとワクワクがつまっています。
一番の見どころは、防犯カメラを通した告白のシーン。
2001年に公開された当時、銀行に行くと防犯カメラが気になって仕方がなかったです。誰か、わたしの想いを受け取ってくれないかなーなんてね。「いや、きみは人妻や」と思った……。
このふたりが結婚して、20年後の物語が「君の誕生日」だと考えると、ちょっとせつない。
デビュー作の社会派ドラマで、世間の度肝を抜いたソル・ギョングと、前作で男の嫉妬に運命を狂わされた女を演じたチョン・ドヨン。そのせいか、あまりにも平凡すぎるラブストーリーに韓国での興行は振るわなかったそうです。
でも。
製作費○億ドルとか、興行収入がどうとか、そういう映画もいいんだけど。地味な仕事に、地味な人生を生きる、地味な映画もいいんですよ。派手さがないからこそ、誰かに恋する気持ちが輝いて見える。一所懸命さが結果に結びつかなかったり、空回りしたりしてしまう不器用さに、ホロリとします。
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