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“一所懸命”をめざす勇気 『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』 #261

「一所懸命」と「一生懸命」のどちらが正しい表記なのか、ご存じですか?

結論からいうと、現在ではどちらも間違いではありません。元々あったのは「一所懸命」という言葉。「いっしょけんめい」が「いっしょうけんめい」と音を伸ばして発音されるようになったことから、「一生懸命」という表記が生まれたようです。

毎日新聞の「コトバ解説」がマンガの説明でかわいかった。

校閲ガールとして新人ちゃんの原稿を読んでいる時、こうした「むむ?」と感じる言葉を見ても赤字は入れないのですが、「なぜこちらの表記にしたの?」と聞くことがあります。

「なんとなく」

なんて答えたら、わたしに突っ込まれることが分かっているので、新人ちゃんは文字通り「一所懸命」に理由を考えています。

(かわいい……)

と思っていることはナイショ。

最初の質問に戻ると、わたし自身は「一所懸命」の表記の方が好きなんですよね。言葉の由来である「武士が『』の領地を命懸けで守り、それを生活の頼りにして生きた」という感じが出ているから。

「一生懸命」にも必死感はありますが、取り組む対象がはっきりしている分、「一所懸命」の方が命がけな感じを強く受けるのかもしれない。

では、わたしは。

「一所懸命」に命がけで必死になって取り組んでいるものは、あるでしょうか?

そんな問いを突きつけられた気がした本が、阿部広太郎さんの『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』でした。

阿部さんは電通のコピーライターです。東進ハイスクールのCM「いつやるか?今でしょ!」をつくった方。

本には、脚本家の渡辺雄介さんや小説家の白岩玄さん、映画監督の松居大悟さん、社会学者の古市憲寿さんらと、夢について、生き方について語った対談が収められています。

そして、阿部さん自身の「これまで」も。

電通勤務で、コピーライター、映画プロデューサー、作詞家としても大活躍されている阿部さん。そんなキラキラの人と自分は違うから……と思ってしまいそうですが、実は曲がりくねった道をグネグネさまよい歩いてきたのだとか。

ひとりぼっちだった中学時代。ひょろひょろの身体でアメフト部に入った高校時代。そして電通で最初に配属された人事部時代。

阿部さんの前には、いつもいつも「ここじゃないかも」という迷いがあったようです。そんな弱みを現実は突いてくるんですよね。

人事部の仕事としてインターン生への「広告体験」を手伝う中で、嫉妬を味わうことになるのです。

本当は憧れていたのに、口に出すのも恥ずかしかった。「世の中に一体感をつくりたい」という僕が本気で好きなことを仕事にするために、何一つ努力せず、勝手に諦めて、誤魔化していた自分が、情けなくて仕方がなかった。

クリエーティブへの異動を希望した阿部さんですが、試練は続くよどこまでも。ようやくクリエーティブ局への異動が叶った後も、人生そんなに甘くない。

「一所懸命」に目盛りがあればいいのにと、そんな風に思ったことはなかったのかしら……。

学校の勉強や、RPGゲームなら、「このレベルまでいけば、これができる」がはっきりしています。でも、「会社員の必死」や、「一所懸命の仕事」には、そうした基準がありません。

のらりくらりやって数字を達成できる人もいれば、朝から晩までパソコンに向かっても空回りという人もいます。与えられたミッションをこなせば満足という人もいる。どれもが人生です。

楽な方がいい?

わたしは「一所懸命」な方をお勧めします。自分の人生をたぐり寄せる方法は、きっと自分にしか見つけられません。

今週は「社会人デビュー目前のための本」を紹介していますが、『待っていても、はじまらない。』は、一歩踏み出す勇気をくれる本です。

「一所懸命」の先に見える世界に向かって、潔く前に進もう。



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