イーディ

遅すぎることなんてない 映画「イーディ、83歳 はじめての山登り」 #223

今だからできることもあれば、もっと早く始めていればと思うこと、ありませんか? 永六輔さんは著書『大往生』の中で、

「人間、今が一番若いんだよ。
明日より今日の方が若いんだから。
いつだって、その人にとって今が一番若いんだよ」

と書いていますけれど、たぶんその通りなんですけど、なんといってもわたしは“言い訳”大臣なんです。

いつか、そのうち、時間ができたら。

そう言いたくなってしまう。そんなこと言ってるうちに、人生はあっという間に過ぎてしまうのだよー! なんてことは、言われなくても分かってます。それに関する名言もいっぱいありますし、聞いたことありますし。

でも。

そう言いたくなるのが凡人のつらいところです。

わたしは20年前に韓国に語学留学し、中級レベルの韓国語を身につけました。行く前には「いまさら」と言われ、帰ってきてから勉強を続けようとしても「それ以上やって意味あるの?」と言われたんですよね。

ちょうど韓流ブームが起きてドラマや映画が増えたおかげで、ひとりで勉強する教材に困らなくなったのはラッキーでした。韓国語教室も一気に増えましたが、上級レベルの韓国語を学べる場所は大学院以外にありませんでした。

ただ、毎日の「生活」以外のなにかがしたい。

その程度の理由で目指すには、「大学院」という名前は大仰すぎました。

いま考えると……。

行っときゃよかった!!!

なんですけれど。ネガティブな質問ばかりされて、「いつか、そのうち、時間ができたら」と迷ってしまった自分がもったいない。


わたしと同じように凡人で、長年にわたって専業主婦をやり、しかもそのうちの30年は夫の介護もしていて自分の人生を生きられなかったという女性が、初めて登山に挑戦したら、めっちゃ大変で死にかけたという映画を観ました。

「イーディ、83歳 はじめての山登り」という映画です。

<あらすじ>
30年間にわたって夫の介護を続けてきたイーディ。夫を見送った時には83歳になっていた。娘には施設への入居を勧められているが、決心がつかない。フィッシュアンドチップス屋店員の言葉に励まされ、父との夢だったスコットランドのスイルベン山登山を思いつく。未経験で高齢とあって、周囲の人は反対するが、イーディの決心は固く……。

イーディは、かわいらしいおばあちゃんと言えなくもないですが、どちらかというと自分一人でがんばってしまってつらくなって爆発するという意固地なおばあちゃんです。

嫉妬深く独善的な夫を見送った時には、すでに83歳。自宅を整理し、施設への引っ越しを、となるわけですが。

ちょっと待ってぇぇぇぇぇ。

と思いますよね。だって、「わたしの青春、どこ行った?」なわけです、イーディにとっては。

一番幸せだった時代はおてんば娘だった子どものころかもって、そんな人生さみしくないか?

そこで、父といつか行こうねと話していたスコットランドの北部にあるスイルベン山に行くことを決意します。

イーディ3

(※画像はWikipediaより)

標高はわずか731m。大したことなくない?という見た目。

イーディ2

(※画像はIMDbより)

丘じゃん?という感じに見えますが、長さ約2 kmの急勾配の尾根を歩かないといけないため、3日かけて登攀するという超大変な登山なんです。登山用品店の青年ジョニーと知り合い、彼にトレーニングを依頼して鍛えてもらううちに親しくなるふたり。

数十年ぶりに誘われたパーティにウキウキする自分と、おばあちゃんな現実にがっかりする自分。

「助けて」と言えない自分と、「チャレンジしたい」と言えない自分。

自然の猛威と貧弱な体力に絶望しかない自分。

83歳にしてイーディは葛藤します。山という、自分ではコントロールしようもない自然の中で、人に弱みを見せられるようになっていく姿にホロリとしました。

イーディを演じたシーラ・ハンコックは、役と同じ83歳。実際に登山のトレーニングを受け、撮影に臨んだとのこと。自然の美しさを感じてもらうためにセット撮影はしたくないというサイモン・ハンター監督のこだわりに応え、見事な景色を見せてくれました。

83歳。

「もう年だから」

という言い訳が、言い訳として成立すると納得してしまいそうな年齢ですが、彼女はチャレンジすることを決めてスコットランドに向かいました。

フィッシュアンドチップス屋の店員さんが言った、

「なにごとも遅すぎることなんてないさ!」

そのひと言に励まされて。


韓国に留学した時に「いまさら」と言われたわたしと同じように、山に登りたいイーディも「で?」と言われます。そして、もしイーディが20代の女の子だったら、この登山はレクレーションを“消費”したことで終わっていたかもしれません。83歳の今だから見えた景色が、わたしにはとても感動的でした。

なぜなら、わたしもちょうど一つの挑戦を終えたばかりだからです。

昨年の9月から韓国語の短編小説2編を翻訳する「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」の課題に取り組んでいました。言葉と格闘しながら、「あの時、もっと勉強していたら……」と何度も思いました。

「いまさら」「で?」というネガティブな質問にあったら、こう言うことにしています。

いまがベストタイミングなのよ。






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