神様からひと言

落ち込んだ時に読みたい小説 『神様からひと言』 #198

かつて常駐で仕事をしていた字幕制作会社は、某ケーブルテレビのコールセンターも兼ねていました。「手が空いている時は電話もとってね」と言われていたのですが、字幕係は全員ヘッドホンをしているので、電話が鳴っても誰も気づかない、という不思議な現場でした。意味あるんかい。

世にいう「お客様相談室」はなかなかに恐怖の現場だそうですが、そこへ左遷されたサラリーマンの絶望と再生を描いた小説『神様からひと言』は、なかなかに泣き笑いできる小説です。

大手広告代理店から食品会社に転職した主人公の佐倉ですが、張り切りすぎてトラブルを起こし「お客様相談室」へ異動となります。ここはリストラ要員収容所と呼ばれる最果ての場所。奮起を誓うも、そこにいるのはクセのある人たちばかり……というストーリー。

クレーマー of クレーマーなお客様をホイホイさばく極意は、クレーム対応の見本としてもよさそうな小説です。

わたし自身は、社会人経験は長いけど、会社員経験があんまりありません。だから、「サラリーマン小説」を読むと感心しちゃうんですよね。

なんでこんな理不尽に耐えないといけないんだろう……?

もちろん、フリーランスで仕事をしていても理不尽なことはいっぱい起きます。パワハラもあるし、モラハラもあるし、けっこうまあまあな修羅場も経験しました。それでも、身一つでどこにでもいけるという覚悟さえあれば何とでもなっちゃう。

その点、『神様からひと言』の中で佐倉や同僚たちの「辞めたくても辞められない」状況が、「これぞ、ジャパニーズ・サラリーマン!」と感じてしまったのでした。社会の縮図のような会社。自分もその色に染まって無感覚になっていないかとハッとします。

絶望の中で佐倉は“神様”に会い、彼との勝手な対話を通して自分の価値を見つめ直すことになります。

これはとっても『こいぬのうんち』なお話なんですよね。『こいぬのうんち』、ご存じでしょうか? 主人公が「うんち」という絵本です。

道端に落とされた「うんち」は、小学生たちに「きったねー!」と言われ、「ぼくって、汚くて何の役にも立たない……」と落ち込みます。やがて春になり、自分が命をつなぐ役割を果たしていたことを知る、というお話。

悩んでいる時、落ち込んでいる時、自分には生きている価値がないように思えて、視野が狭くなってしまうんですよね。そういう時こそ違う視点で考えられるといいんですが、ひとりではなかなか難しい。コーチングなど、人との対話はとても有効だと思います(わたしがコーチだからいうわけじゃないけど)。

“神様”にも喜んでもらいたいと考える佐倉。はたして“神様”は微笑んでくれるのか!?

ビートルズ好きならはまっちゃうポイントもありますよ。


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