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発見!本をつくる仕事人 『本のエンドロール』 #535

「営業がバカだから」

これまで制作サイドから、何度となくこの言葉を聞きました。営業側からすると、「何を聞いてもダメって言われる」「そもそも怖くて相談できない」なんですよね。

営業と制作は、永遠に分かり合えないのか。

安藤祐介さんの小説『本のエンドロール』の主人公は、「伝書鳩」と呼ばれている営業マン・浦本。本を作る過程を通して、浦本が成長していく姿が描かれています。

物語は、中堅の印刷会社・豊澄印刷の会社説明会のシーンから始まります。リクルートスーツを着た学生たちの質問に答える社員たち。夢について聞かれた質問で事件は起こります。

「目の前の仕事を毎日、手違いなく終わらせることです」

と語る印刷機のオペレーターもいれば、

「印刷がものづくりとして認められる日が来ることです」

と語る営業マンもいて、なぜか学生たちが集まる前で社員同士が対立してしまうんです。

「印刷」とは「ものづくり」なのか。校正という職人の世界にいるわたしは、「毎日の仕事を手違いなく終わらせる」というオペレーターさんの意見に近い気持ちで仕事をしています。でも「ものづくり」の一端を担っているという気持ちもある。

精魂込めて文字を綴った作家と伴走する編集者だけでは「かたち」にならないから。

「本を作る」とひと言でいっても、その工程には多くの職人が関わっています。そんな細かいところまで!と思うような知られざる作業が、小説の中でひとつひとつ紹介されていきます。『本のエンドロール』を例にした印刷工場や製本工場の動画も公開されていて、小説の世界を見るようでした。「奥付」を「エンドロール」にたとえるなんて、粋だなー。

「奥付」とは、本の最後のページにある、発行者や著者を記したもののことです。

奥付3

『本のエンドロール』の場合は、奥付の前にSTAFFリストとして、多くの人の名が載っています。まさに「エンドロール」。

これまでの本で、「奥付」に載るのは印刷会社と製本の会社くらいでした。最近では本文デザインや図表デザイン、校正会社が載ることも増えてきたかも。

奥付2

編集者の手を離れ、「責了」した後に誤字が見つかることがあります。小説にも出てきますが、シールを貼るのか、ページを差し替えるか、刷り直すか。発行日までのスケジュールや経費をにらみつつ、決断することになるのですが。

シール処理された本を見ると、心臓がキュッとします。
(「著者」のところだけシールなのが分かるでしょうか)

奥付1

『本のエンドロール』はお仕事小説として、すごく胸熱な展開です。もちろん、いいことばかり起きるわけではなく、印刷機を一台リストラする危機にも見舞われます。

「伝書鳩」と揶揄される営業マン・浦本は、少しずつ成長していきます。そのためにはやはり、印刷の現場を知ることが必要だったのだなと思うんですよね。そして、職人側は営業がどれだけの“アツ”に耐えているのかを知ることで、彼を見る目が変わっていく。

本がどうやって作られていくのか、裏側を見られる発見を含め、「仕事人」それぞれへのリスペクトが気持ちいい小説でした。

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