好きな理由は、みんなちがうから 『炎上CMでよみとくジェンダー論』 #610
「そんなつもりじゃなかったのに」
これ以上ないほど、ひとを脱力させる言葉ですよね。『ネット炎上の研究』によると、ネットの世界でたびたび起こる「炎上」とは、「ある人物や企業が発信した内容や行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」のことと説明されています。
もちろん炎上したくてさせたわけではないのでしょうし（意図して話題性を狙ったものもあるでしょうけれど）、「そんなつもりじゃなかったのに」という言い訳はよく目にするところです。あまりにも頻繁に「そんなつもりじゃなかった」が起こるから、そもそもの、根底の、土台に、なんかすれ違いがあるのだと分かりますよね。
瀬地山角さんの『炎上CMでよみとくジェンダー論』は、「CM」を切り口に、そんな「炎上」の原因を探った本です。
東京大学でジェンダー論を教える瀬地山角さんは、院生時代に子育てをしながら通ったのだそう。そのせいか、お子さんはよくある「お母さんが料理をつくっていて……」型のCMを見ると、「うちとは違うね」と言うそうです。
テレビやマンガを見ていて、違和感を持てるかどうか。
本では、日本のCMで描かれる家族のあり方や夫の姿、女性像や「エロ」への意識など、多くのCMが挙げられています。ポイントとなるのは、
・ 訴求層
・ 性役割
・ 容姿
・ 性的メッセージ
です。各ポイントについて、同じ業界の中から炎上したCMと支持されたCMを挙げ、違いを分析。この本を読んで以来、やばみなものを見ると、「あーこの象限に入ってるから燃えるかも」と自分でチェックしています。
ユニ・チャーム「ムーニー」とP&G「パンパース」のCMで紹介してみます。
ユニ・チャーム「ムーニー」- はじめて子育てするママへ贈る歌。
2016年12月26日動画公開。2017年5月ごろに話題に。
主な反応：
「ワンオペ育児礼賛か」
「女はガマンせよってことか」
P&G「パンパース」- MOM’S 1ST BIRTHDAY ママも1歳、おめでとう。
2014年7月31日公開
主な反応：
「ボロ泣きした！」
「妻が夫から一番聞きたい言葉」
同じように赤ちゃんグッズのメーカーがつくったCMで、同じようにママの子育て風景を描いたCMなのに、反応は正反対になっているんですよね。
共通点と違いを整理すると、こうなります。
両社ともに「ママを“応援”する」意図で制作されたのだと思います。「ムーニー」の方は、現状の「性役割分業」の歪みを否定も肯定もせず、「でも、ママ、がんばって！」というストーリーに見えるんです。
「女はガマンせよってことか」
そう感じてしまうのも無理はないこと。こうした「性役割分業を“応援”する」場合、ただ「応援」するのは現状を追認するのと同じこと。いま疲弊している人にとっては、神経を逆なでされることになるので、炎上の元になる可能性も高まります。
この本、とても勉強になったのですが、できれば実際のCMを見ながら読んだ方がポイントが分かりやすいと思います。なので、自分用のメモとして探して集めました。
ぜひ、本と一緒にご覧ください。軽快な語り口にフフフとなっちゃいますよ。
ユニ・チャーム「ムーニー」- はじめて子育てするママへ贈る歌。
P&G「パンパース」- MOM’S 1ST BIRTHDAY ママも1歳、おめでとう。
資生堂「インテグレート」- Unhappy Birthday
資生堂- High School Girl? メーク女子高生のヒミツ
ルミネ- 働く女性たちを応援するスペシャルムービー
西武・そごう- 女の時代なんて、いらない。
POLA リクルートフォーラム- これからだ、私。
宮城県- 仙台・宮城観光PR動画「涼・宮城の夏」
スバル「フォレスター」- 父の挑戦
フォルクスワーゲン「New Golf」- 好きな理由は、みんなちがう。
最後に、瀬地山さんおすすめの台湾のCMを。「金蘭醤油」という老舗企業が制作した、議論のステージがまったく違うことを感じさせるCMです。
「好きな理由は、みんなちがう。」
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