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もっとワガママに人生を選んでもいい 『ゆけ、おりょう』 #317

坂本龍馬。言わずと知れた、幕末の英雄ですが、「日本初」の称号もいくつも持っているそうです。

ひとつは日本で初めて株式会社を起ち上げたこと。神戸海軍操練所で学んだ技術を生かすため、「株式会社亀山社中」設立し、実際に、国内や海外で通商活動を行っていました。

ふたつめは、以前テレビで見た話なのですが、日本人で最初に「水虫」になった人物なのだそうです。それまでの日本では、裸足か足袋に草履履きが基本。「革のブーツ」を愛用した龍馬は、「足がかゆいんだよー」と嘆いていた、という話でした。気の毒。

そして、日本で初めて「新婚旅行」をした人なんですね。お相手は、おりょう。ドラマの影響か、美人で気っぷのいい女性というイメージがありました。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』では、あんまりいい描き方をされていなかったような。

龍馬の死後、彼女はどうなったのか?

ほとんど知らなかった彼女の人生を、門井慶喜さんの『ゆけ、おりょう』で知りました。

京都にある料理屋兼旅館で仲居をしていたおりょう。父は医者で、母は公家侍の箱入り娘。そのため、子どもの頃は裕福な暮らしをしていたようですが、父が亡くなったことで一転、自分が稼いで家族を守らなければならない立場になります。

天下国家を論じる浪人たちにも物怖じせずに言い返し、浴びるように酒を飲み、「結婚なんか、してられへん」と思い詰めていたのに。「大成しない男」と軽んじていた龍馬と結婚。でも、三歩下がって付いていくようなタイプじゃないんですよね。とても自立心の旺盛な人だったようです。

龍馬という規定の枠に収まらない人物と一緒にいれば、並の人なら飲み込まれてしまいそうな気がします。ふたりが「夫婦」として生きられたのは、お互いに自立していたからなのかもしれません。

いまでこそ「坂本龍馬」という名前は大人物ですが、おりょうにとっては「手のかかる弟」のようなもの。世話好きな性格は、龍馬亡き後、生きづらさを呼び寄せているようで、読むのがちょっとつらかった。

じゃあ、龍馬と一緒に死ねたらよかったのか。

後を追えばよかったのか。

わたしは、そうは思えなかったんです。女性の生き方は「結婚か、仕事か」「子育てか、キャリアか」と二択で語られることが多い中、おりょうは自分が生きたいように生きたのだと思います。規定の枠の中で家族を背負い込んだ人生から、自分の人生へ。

おりょうの生き方を垣間見て、もっとワガママに自分の人生を選んでもいいんじゃないかなと感じたのでした。晩年の姿は痛々しいけれど、気前よく叫びたい。

ゆけ、おりょう! ゆけ、わたし!



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