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八咫烏のお妃選びは謀略だらけ 『烏に単は似合わない』 #502

ファンタジー小説というと、物語が長くて巻数も多いし大変という方もいますよね。でも、始まったばかりの小説なら大丈夫。

2012年に第1巻の『烏に単は似合わない』が刊行された「八咫烏シリーズ」は、第1部が6巻だけ。短編をのぞけば5巻で内容を把握しつつ、話を追いかけることができますよ。

阿部智里さんが史上最年少で第19回松本清張賞を受賞された『烏に単は似合わない』は、八咫烏の一族が支配する異世界「山内」でおこなわれるお妃選びの物語です。

<あらすじ>
人間界とは隔絶された山の中「山内(やまうち)」で暮らす八咫烏(やたがらす)。その長である金烏(きんう)のお妃選びが行われることに。東西南北の各家から候補が集められるが、肝心の金烏である奈月彦が姿を見せない。その奈月彦の側近となった雪哉は、奔放な主人に戸惑いつつ、宮廷のルールを学んでいくが、事件が起こり……。

「八咫烏」は、日本神話に登場するカラスで、三本足とされています。神武天皇を大和の橿原まで案内したとされており、導きの神とも太陽の化身ともされているそう。

八咫烏

(画像はWikipediaより)

「山内」で暮らす八咫烏たちは、転身して人間の姿になることができ、着物を着て、人間と変わらないような生活をしています。

後に明らかになるのですが、「八咫烏シリーズ」は、伝統の継承を巡る物語なんですよね。その壮大な世界を起ち上げる第1巻は、舞台設定と主要なキャラクターの紹介、そして権力争いが描かれています。「お妃選び」というからラブストーリーかと思いきや、謀略だらけなんです。

烏に単は似合わない2

烏に単は似合わない3

主人公の雪哉は、北家の出身。代々武人としてならした家系ですが、雪哉自身は、一族の中で、うだつが上がらないぼんくら息子と言われるほどの「マヌケ」。実はそれは雪哉の作戦で……といった事情も明らかになっていきます。

第2巻の『烏は主を選ばない』は、ほとんど朝廷に姿を見せない奈月彦は、何をしていたのか、というストーリー。裏表で楽しむことができる2冊です。

いい大人がファンタジーなんて、と侮るなかれ。「八咫烏シリーズ」は戦略論やリーダー論に興味がある方にもおすすめの小説です。八咫烏たちの長である「金烏」は、「王」のようなもの。支持基盤の弱い奈月彦による反対派との戦い、側近のとりまとめ方は、知的なゲームを見ているかのようです。事情があって、マヌケのふりをして生きてきた雪哉もまた、成長していきます。

気になった方は特設サイトものぞいてみてください。

苗村さとみさんによるカバーイラストもステキですが、松崎夏未さんのマンガ版もいい感じです。


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