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心がつるつる、ぴかぴかなのはシアワセなことなのかしら 『彼女は頭が悪いから』 #315
こんなに衝撃的で、読後感の悪い小説があっただろうか。
姫野カオルコさんの小説『彼女は頭が悪いから』を読んで、最初に感じたのがそれでした。
<あらすじ>
ごくふつうの家庭で、ごく平均的に、いい子に育った神立美咲は女子大に進学します。サークルで知り合った竹内つばさは、裕福な家庭に育ち、東京大学理科1類という青年。まったく違う世界に生きていたふたりは、ひと目で恋に落ちたはずだったのに……!?
実際に起きた東大生5人による強制わいせつ事件に着想を得た物語です。深夜のマンションで発生した事件に対して、世間の非難を浴びたのは被害者の女性の方でした。
なぜ、被害者が非難されなければいけないの?
ニュースを見た時に感じた疑問が、そのまま怒りとなって蘇ってしまう。本のタイトルは、取り調べ中に加害者男性が「彼女は頭が悪いから」と口にしたことから来ているそうです。
「東大生」という名前に群がる人たち。それを当然と感じている本人たち。人間が持っている多くの能力のうち、「テストで正解をとる」部分だけを極端に伸ばした結果、「ヒト」を見ても、自分と同じ「ヒト」と思えなくなってしまったかのような姿には嫌悪感しかない。
そんな犯罪者のひとり、「竹内つばさ」に対して、「心がつるつる、ぴかぴか」という表現があります。
「つるつる」も「ぴかぴか」も、ポジティブな意味で使われることが多いように思いますが、ここではちょっと違う気がしました。「輝くような美しさ」を持っている青年というよりも、人間的な深みのない男という意味ではないかと感じたのです。「濁り」のあるお茶がおいしいように、人間も挫折や引け目といった「濁り」が必要なのかも。
政治的な発言をした芸能人に、「歌手だから知らないだろうけど~」なんて発言をした人がいましたが、彼も「竹内つばさ」と同じものでできている気がしてしまいます。
「竹内つばさ」のような人物として、韓国映画の「ベテラン」に出てくるテオを思い出しました。財閥の御曹司で、何かやらかしても、パパとおじさんが後始末をしてくれるというクソガキです。
職業や、出身校、性別、年齢で差別したがる人たちがいる一方で、こういう小説を読んで「これだから東大生は」と考える人がいることも事実。
でも、そんな読み方こそ、「竹内つばさ」的なのかもしれない。
帯に「非さわやか青春小説」とある通り、被害者と加害者の子ども時代から始まる物語は非常に衝撃的でした。それは自分の中にある「差別の芽」を意識せざるをえないから。
だから「読まない方がいい」よりも、「読んだ方がいい」。人間はここまで醜くなれるのだなという、作家の想像力におののきます。
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