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テレビ批評の新機軸 『芸能人寛容論』 #325

「消しゴム版画家」のナンシー関さん、ご存じでしょうか?

テレビ評論家、コラムニストとして活躍されていた方です。週刊文春で連載されていた「ナンシー関のテレビ消灯時間」が好きで、本もいろいろ読んでいました。亡くなられたのは2002年だから、もう10年以上も経つんですね。

5月28日に行われた本屋B&Bのイベントで、雑誌「BRUTUS」の編集長である西田善太さんが「ナンシー関がいま生きていて、Twitterをやっていたらどうなったか?」という話をされていました。

対談相手の中川淳一郎さんは、「マネージャーが止めるでしょうね」と即答。

うん。たぶんそうなるだろうなーと思いました。批評の目が鋭いから、「文脈」のないTwitterの中では炎上ばかりしていただろうなと思います。

ナンシー関亡き後、彼女の後を継ぐのは誰だろうと考えた時、思い浮かぶのは武田砂鉄さんです。

今日は、鋭い観察眼とツッコミを活かしつつ、「寛容」を説いた武田砂鉄さんの本『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』について書いてみます。

「書いてみます」って書きながら、とっても困ったのですが。

この本に登場する芸能人は52人。テレビの中で見かける芸能人に抱く「もやもや」を「必死に寛容」する過程が紹介されています。これは、名言集にした方が面白いかもと思ったので、わたし的名言を集めてみました。
(ファンの人がいたらごめんなさい。本を読んでみてください!)

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どれもニヤリとする言葉じゃないですか?

本のあとがきで、本書を出版した際に「ナンシー関のエピゴーネンじゃん」と呼ばれたとありました。エピゴーネンとは模倣者・追従者のことです。

武田さんは「ナンシー関さんを尊敬していたから、そう呼ばれるのははばかられる」と書いています。

エピゴーネンのなにが悪いねんと思いますが、武田さんの筆の特徴は「迂回に迂回を重ねる」ところに発揮されていると感じます。

ナンシー関さんのツッコミが「チクチク針でつついて骨を断つ」だとしたら、武田さんのツッコミは急所を「真綿でふんわり絞めていく」ような感じでしょうか。

まわりくどいな、と感じるくらいの書き方だから、脊髄反射できない。読解力のない人には、批判されてるのか、褒められているのか分からないかも。言い過ぎかな。笑

慧眼だなと思ったのは、「池上彰依存社会」の章です。

テレビの中で、ひたすら分かりやすく解説することを求められる「池上彰」という存在。池上さんに依存しているバラエティ番組の危うさが指摘されています。『芸能人寛容論』が出版されたのは2016年なので、池上さんがお読みになったかどうかは分かりません。でも、2019年に池上さんは『わかりやすさの罠』という本を出されているのです。

安易な「わかりやすさ」に対して、情報の扱い方を説いた本です。この本の中で、わかりやすく伝えるためには、そぎ落とさざるをえない情報があることに触れておられます。

直接ではないけれど、おふたりのやり取りを見るだけでも読む価値ありますよ。


ニセモノとホンモノ。いいか悪いか。そんなカンタンには当てはめられないことの方が、世の中にはたくさんあります。『芸能人寛容論』は、そんな二分法で切り捨てずに受けとめてみるとどうなるかの実験といえます。

もうちょっと、「あいまい」を受け入れる余裕を残しておきたいな。


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