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詩人と歌人による連作は、先の読めないワクワク 『今日は誰にも愛されたかった』 #615

谷川俊太郎さん、岡野大嗣さん、木下龍也さんという、豪華な3人による連作が一冊の本になっています。

『今日は誰にも愛されたかった』という、日本語の文法的にはちょっと違和感のあるタイトルが、どこで登場するのかは、読んでのお楽しみ。どこへ向かうのかまったく先が読めない展開に、ワクワクしました。

そのむかし、巨大迷路がブームになったことがありました。生垣で作られた迷路の中をグルグル歩き回るやつです。曲っても、曲っても、ゴールは見えなくて、でも、すごく楽しいんです。先が分からないことが。

4か月かけて36篇を編まれた『今日は誰にも愛されたかった』も、そんなおもしろさがありました。

最初は「ベランダで感じた春の気配」からスタート。そこから、歌人→詩人の順で、次の方にバトンを渡していきます。

岡野大嗣さん(歌人)

谷川俊太郎さん(詩人)

木下龍也さん(歌人)

谷川俊太郎さん(詩人)

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連作終了後に、3人でおこなった対談も収録。前の作品のどこを受け取って、どういうところに着地させるのか。深めたり、広げたり、ずらしたり、ジャンプしたり。読みながら感じた世界を、作者自らが解説してくれるのですから、ぜいたくです。

中には谷川さんの詩へのツッコミも。

炊飯器が何か言ったけど聞き流して三人で外へ出た
いつの間にか前の道に水たまりが出来ている
市川が蹴つまずいたが転ばなかった
(谷川さん)

これを読んだ岡野さんと木下さんは、「市川って誰だよ!」と思ったのだとか。

谷川さんは、この連作の特徴を作りたいと思ったそうなのですが、こうして固有名詞が出てくると、一気に世界が身近に迫ってくる感じがありますね。あぁ、固有名詞って、こういう風に使うと切り札的になるんだなと感じた部分でした。

創作の裏側ものぞけるぜいたくな一冊。表現者の目に映る世界って、ホントに解像度が高いんだなと思います。



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