料理教室

自分を縛る「苦手意識」から解放されるには? #155

わたしの母と姉は料理好きで、お店で食べた料理を自宅でも再現してみる、レシピを自分好みの味に調整する、といったことが「普通」にできます。話を聞いていると、「舌」が敏感なんだなという印象です。

一方でわたしはというと、「舌」が鈍感なんです。これは父に似たのだと思います。というか、そう「言われた」ことを、この本を読みながら思い出しました。

パリのル・コルドン・ブルーで修行し、遅咲きの料理人でライターでもあるキャスリーン・フリンの著書『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』です。

この本の「プロローグ」を読んだ時、なぜかブワーッと涙が出てきました。

キャスリーン・フリンは、スーパーでひとりの女性と出会います。彼女はカートに山盛りの加工食品を入れていました。スーパーの中を尾行していたフリンは彼女に、丸鶏で買う方がお得なこと、加工食品のパッケージの見方などを教えますが、「助かったわー。でも料理の仕方が分かんない」と言われてしまうのです。

そこで「料理ができない」と悩む女性たちを集めて無料の料理教室を開催。包丁の持ち方から始まって、さまざまなオリーブオイルやスープの素のテイスティング、鶏や魚のさばき方を教えます。中には、「命をいただく」ことについて考える授業も。

雑誌のグルメ特集やテレビの料理番組によって、いつしか料理は、「する」ものではなく、「見る」ものになってしまったと感じる著者。手作りを礼賛するわけでも、加工食品を全否定するのでもなく、ただ「選択肢を増やすための知識」を伝えています。

「食」に関する多くの情報は、元々料理に自信がある人にとってはうれしいものです。一方で、苦手意識のある人にとってはますます「自分は料理ができない」と思い込ませてしまうものではなかったか。

料理するたびに夫に笑われた女性、母に言われた呪いの言葉、両親との思い出の味がマクドナルドなど、料理教室に通う悩める10人の女性には、食べ物と料理に関するつらい記憶があり、それが現在の自分を苦しめているようでした。

「包丁が怖い」と怯えていた受講生がどんどん自信をつけていき、友だちとのパーティの様子を報告したり、息子の言葉に涙した話をしてくれたり。迷い、悩み、恐れながら企画したフリン自身、「自分が肯定された」ように感じているようで、とてもドラマチックで感動的です。

「食べること=生きること」である以上、キッチンが怖い場所でなくなることは、幸せな生き方への一歩なのかもしれない。そして、思い込まされていた「苦手意識」から抜け出すことができれば、他のことにも自信を持って取り組めるかもしれない。

料理教室をスタートさせる前に、フリンは10人の女性たちの家を訪れ、キッチンにあるものを教えてもらい、料理する様子を観察します。

料理教室のコース終了から半年後。フリンは再び彼女たちの家を訪問します。自分の教えは、日常に活かされているのか。授業を通して気づきを得たとしても、行動に結びつかなければ意味がありません。

知識が訓練に結びつき、訓練が習慣に結びつく。

ドキドキの訪問の結果は、ぜひ本で確かめてください!

料理が苦手という女性だけでなく、家庭ではもっぱら妻が料理を担当しているという男性にもおすすめ。この本を読んで、料理する人の気持ちが分かったら、簡単に「まずい」とか言えなくなります。


この本で紹介されている授業内容は、自分でもやってみたーいと思えるものが多く、とても好きな本の一冊になりました。料理好きな友人にも本を紹介したりしています。だから、ひと言言いたい。

「実は編集者だけでなくこの本に関わった全員が料理苦手の“ダメ女"を自任する人たち」
評者:「週刊文春」編集部

Amazonの商品紹介ページに書かれている通り、本を作る背景には料理が苦手な人たちの問題意識があったのだと思います。

そういう人たちを「ダメ女」と思い込ませる環境から救おうとしたのが、フリンの活動ではなかったのか。

著者の意図するところと、日本版タイトルとのギャップに、「日本的自虐の笑い」文化を感じてしまいました。

料理ができないことは、「ダメ」なことではないです。知識があれば「苦手意識」は変えられます。どうか、雑音で自分を縛らないで。


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