現代文は読まずに解く! ~センター試験評論2019本試編~

はじめに

このテキストをご覧いただき、ありがとうございます。

センター試験をはじめ多くの現代文の問題は、傍線部周辺に答えに関する内容が書かれていることがほとんどで、全文をよく読まなくても解けてしまいます。ここでは全文をしっかり読まなくても解ける現代文の解法を伝授します。

高校の現代文の授業では頭から順番に読んでいき、重要そうなポイントで線を引き、傍線が引かれた問いにたどり着くと、そこで本文を参考に解答をまとめるという作業をしていきます。

しかし、実際の大学入試では時間制限があるため、精読している時間はありません。また、文章1つあたり傍線は3,4箇所しか引かれていないことが多く、全文をじっくり読むと問題に関係ない箇所までじっくり読むことになってしまいます。このノートにあるメソッドを使って効率よく現代文の解き方をマスターしましょう。

※タイトルに「読まずに解く」と書きましたが、傍線部周辺は読む必要があります。また、本文の大きな流れを読み間違えないように、そして全体の趣旨を問う問題に解答するために本文全体を流し読みする必要はあります。問題文だけ読んでも答えられませんのでお間違えの無いようにお願いします。

筆者プロフィール
東大合格者数20名以上(学年の約1割)の高校出身。また、大手予備校の東大受験コースにも在籍し、現代文を中心に大学受験に必要な技術を磨いた。

本テキストの構成

ここでは問題ごとに読むべき段落を限定して解いていきます。なお、noteのシステムの都合上、本来傍線で表記する箇所は太字で表すことにします。また、各段落冒頭の括弧は段落番号を表します。

では問題に入りましょう。2019年本試験の評論は沼野充義「翻訳をめぐる七つの非実践的な断章」からの出題でした。

指示語をヒントに解く

最初の傍線は第4段落の末尾に引かれていました。そして、この問題は(2)から(4)段落、究極的には(4)段落のみを読めば答えられます。それでは(4)段落まで読んで、その後の問題にチャレンジしましょう。

(1)僕は普段からあまり一貫した思想とか定見を持たない、いい加減な人間なので、翻訳について考える場合にも、そのときの気分によって二つの対極的な考え方の間を揺れ動くことになる。楽天的な気分のときは、翻訳なんて簡単さ、たいていのものは翻訳できる、と思うのたが、悲観的な気分に落ち込んたりすると、翻訳なんてものは原理的に不可能なのだ、何かを翻訳できると考えることじたい、言語とか文学の本質を弁えていない愚かな人間の迷妄ではないか、といった考えに傾いてしまう。

(2)まず楽天的な考え方についてだが、翻訳書が溢れかえっている世の中を見渡すだけでいい。現実にはたいていのものが―それこそ、翻訳などとうてい不可能のように思えるフランソワ・ラブレーからジェイムズ・ジョイスに至るまで―見事に翻訳されていて、日本語でおおよそのところは読み取れるという現実がある。質についてうるさいことを言いさえしなければ、確かにたいていのものは翻訳されている、という確固とした現実がある。

(3)しかし、それは本当に翻訳されていると言えるのだろうか。フランス語でラブレーを読むのと、渡辺一夫訳でラブレーを読むのとでは―渡辺訳が大変な名訳であることは、言うまでもないが―はたして、同じ体験と言えるのだろうか。いや、そもそもそこで「同じ」などという指標を出すことが間違いなのかも知れない。翻訳とはもともと近似的なものでしかなく、その前提を甘受したうえで始めて成り立つ作業ではないのだろうか。などと考え始めると、やはりどうしても悲観的な翻訳観のほうに向かわざるを得なくなる。

(4)しかし、こう考えたらどうだろうか。まったく違った文化的背景の中で、まったく違った言語によって書かれた文学作品を、別の言語に訳して、それがまがりなりにも理解されるということじたい、よく考えてみると、何か奇跡のようなことではないのか、と。翻訳をするということ、いや翻訳を試みるということは、この奇跡を目指して、奇跡と不可能性の間で揺れ動くことだと思う。もちろん、心の中のどこかで奇跡を信じているような楽天家でなければ、奇跡を目指すことなどできないだろう。「翻訳家という楽天家たち」とは、青山南さんの名著のタイトルだが、翻訳家とはみなその意味では楽天家なのだ。

 太字「翻訳家とはみなその意味では楽天家なのだ」とあるが、どういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから1つ選べ。
① 難しい文学作品を数多く翻訳することによって、いつかは誰でも優れた翻訳家になれると信じているということ。
② どんな言葉で書かれた文学作品であっても、たいていのものはたやすく翻訳できると信じているということ。
③ どんなに翻訳が難しい文学作品でも、質を問わなければおおよそのところは翻訳できると信じているということ。
④ 言語や文化的背景がどれほど異なる文学作品でも、読者に何とか理解される翻訳が可能だと信じているということ。
⑤ 文学作品を原語で読んだとしても翻訳で読んだとしても、ほぼ同じ読書体験が可能だと信じているということ。

翻訳家にとっての楽天的な考え方についての説明を解答させる問題です。(2)から(4)段落までさらっと読めば、
  悲観的な考え方:「厳密な翻訳なんて物理的に無理」
  楽天的な考え方:「厳密でなくてもおよその意味は伝わる」
ということは読み取れます。そのため、楽天的な考え方を説明した選択肢である③と④が候補になります。

ここからが大変です。③も④も本文に書かれている内容で、間違いではありません。そのため問題文にある通り、最も適当なものを選ぶ必要があります。

それぞれの選択肢が本文のどこに書かれているかと言うと、③は(2)段落、④は(4)段落になります。そして問題文には「その意味で」とあるので、「その」が示しているのは同じ段落について説明したが正解となります。

非常に高度な引っ掛け問題でしたが、傍線が引かれていた(4)段落だけ読んだ人にはあっさり解ける問題でした。

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