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妄想リスニング#6 Nine Inch Nails "And all that could have been / Still" × Sachal Vasandani "Still Life"

20代の頃に観に行って強烈なインパクトを残したライヴのひとつとして、NINの"Fragile"のライヴがあります。
気合いの入った友人と2人で観に行き、オールスタンディングで、ステージのど真ん前に陣取った僕らは、ライヴが始まるや否や揉みくちゃになって、友達は気づいたらオーディエンスを上をサーフしてるし、僕は体がちっこいので、周りの屈強なファンに押しに押されてズルズル後退。
ステージが全く見えない状態だけど、音だけは鮮明に聞こえてきて、そのサウンドシャワーに度肝を抜かれていました。
ま、これだけ人がいて、スタンディングなら見えないのは仕方ないかと思ってると、隣に立っていた2mはあろうかという白人のおっちゃんが、曲間に、"ステージが見えるか?"と突然訊いてきたので、"全く見えないね、ははは"とこたえると、いきなり僕を肩車して、"サイコー!!"って日本語で言いながらジャンプし始めました。
そっから先はめちゃくちゃそのおっちゃんと2人でライヴを楽しみました。
ステージには薄いスクリーンが張られていて、そこに映る映像とともにバンドがぼんやりと浮かび上がるような仕掛けがされていました。

ひとしきり激しい曲が終わると、トレントレズナーの低く重い声が、静かなピアノの旋律とともにホールに響きます。
NINは激しい曲のイメージが強いと思うんですが、僕的にはトレントのあの声と、美しく重い曲が元々好きでした。
映像とあいまって、一気に別世界に連れてこられたような感覚に陥りました。

そんなライヴを思い出す音源が"And all that could have been"なんですが、このアルバムは2枚組で構成されていて、その2枚目はライヴ盤ではなく、新曲を含む、とてもシンプルな編成でのセルフカヴァーで、"Still"という隠しタイトルがついているのです。

ピアノとトレントのヴォーカルのみで構成された曲たちは、いつもの激しさからは想像できないほどの曲の美しさ、構成のこだわりや完成度を浮き彫りにし、さらにトレントの声の深みや歌のニュアンスの凄さを100%みせてくれます。
ライヴ盤の1枚目もとても好きなんですが、この2枚目があまりに好きすぎて、なかなか1枚目を聴く暇がないというか、、、もちろんいい意味で、ね。
素晴らしい音楽家の素晴らしい曲って、ほんとにシンプルな編成で何もかも表現できてしまうんだなぁと思ったんです。

さて、この妄想リスニングも6回目となりますが、今回NINと結びついたものはSachal Vasandaniの"Still life"という作品でした。
上記のNINの"Still"と同じように、サシャルの音源もピアノとボーカルのみの極小編成。
低く甘い声が、夜のように広がります。
オリジナルも素晴らしく、デヴィッドシルヴィアンのカヴァーなども含んで、素晴らしい世界観を作り上げています。
サシャルも若いので、デヴィッドシルヴィアンの曲を選ぶあたり、きっとNINも好きなんじゃないかなぁと思うし、"Still"も聴いたことあるんじゃないかなぁと思います。
もはや、オルタナやジャズといった壁はなく、世代も音楽ジャンルも越えて、新しいものが次々に生まれていく時代に胸が躍りますね。

僕自身はドラマーなんですが、ピアノと歌という編成は大好きなんです。
この繋がりは必聴ですよ。


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