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畑で穴に落ちた隣りのおじさん

 私は今、畑で野菜を育てることに夢中だ。
その畑で今日、隣りの畑のおじさんが穴に落ちた。 

私は3月まで、20年以上がむしゃらに働いていた仕事から転職を考えて退職。転職を考えたのにはしっかりとした理由がある。今は次の仕事に向けた準備期間中という名のただの無職。

今は夫の父である義父がやっている畑の一部を借りて野菜を育てている。その畑は、義父が市から借りている畑。市が年間、安い金額で貸してくれるという畑で10年以上借り続けている。今までは、せっせと義父が育てた野菜を時々届けてくれて、スーパーへの買い物もめんどくさいほど忙しくしていた私は本当にありがたく、また楽しみにしていた。夫は3兄弟の3男で、兄が2人いるが、その兄たちも家族があるが見事にみんな野菜をあまり食べないという、何でも食べる我が家にとっては信じられず、でもお陰で義父の育てた野菜の恩恵は全て我が家にくるというラッキーな状況であった。

私が3月に仕事を辞めた頃、あんなにせっせと野菜を育てていた義父の畑が少しだけ荒れていた。夫の両親が高齢ということもあり、義母が料理をしなくなってきたのが理由だった。義母は本当はとても料理をする人で、まさに3兄弟を育てた人という感じ。義母が、自分が育てた野菜を使って料理をするのが畑のやりがいだったと思われる義父。その理由で少しの野菜は育ててはいるものの、結構な広さを借りている畑を使い切れずに荒れていた。

仕事を辞めたばかりの私は、燃えつき症候群のように疲れていた。誰とも喋らず、自分のペースで土をいじって種から野菜を育てる。自分で育てた野菜を自分で食べる。かなり魅力的で、義父に私も野菜を育てたいとお願いし、半分ほどを任せてくれることになった。

次の仕事も具体的に進行しているため、研修や準備期間と同時進行で自分のペースでやろうと・・畑未経験の私は少しナメていた。

だんだん暑い日が増え、蚊が出てきた。雨の日以外は毎日水やりに行くが、それに加えて雑草が増え草取りも必須に。少々畑をナメていた自分に気づき、簡単に畑を始め、素人のクセに一丁前にいくつもの野菜の種を植えたことを後悔し始めている。でも野菜は育ってる。途中で辞めるわけにはいかない。

今日も畑に行き、きゅうりやナス、フキを収穫。水やりをやっていた。
同じ畑の別の区画を借りているおじさんたちもせっせと畑仕事をしていた。
みなさん定年退職した人。〇〇会社の社長さん、〇〇会社の専務だった人など、偶然なのか何なのかこの畑には大きな会社の管理職だった人が多い。(お偉いさんは、共通して腰が低く優しい。こんな私にも気さくに声をかけてくれて、義父のこともいつも心配してくれる)

そんな中、隣りの区画を借りているおじさん。この人は何をしていた人なのか不明だが、一番丁寧に畑を使っており、物静かで、でも何か困って相談すれば何でも教えてくれる重鎮。私たちの小さな畑の神様という感じ。
ある日から謎の穴を掘っているのは知っていたが特に聞くこともなかった。が、毎日掘っている様子で、今ではかなりの深さがある。義父に聞くと「あの人はごぼうを毎年作るんだよ」と。ごぼうのためにあんなに掘っているんだと知り、謎が解決したところだった。

今日、私が作業をしていると「ドスン!!!!!」と大きな音が。

えっ?と思いキョロキョロしたが、他のおじさんたちは誰も顔を上げず自分の畑作業に没頭。ものすごい音だったが、みんな耳が遠いのか?

すぐに私は隣りのおじさんが穴に落ちたと直感で分かった。
なぜならさっきまで別の作業をしていた隣りのおじさんが突然いなくなったから。
でも私はすぐに駆け寄ることはしない。だって自分で掘った穴に自分が落ちるなんて恥ずかしいにもほどがあるもの。おじさんのプライドを守りたかった。自分だったら痛さよりも恥ずかしさが勝つ。ゲラゲラ笑うほどの関係でもないし。落ちたといっても下は土。命に別状はないはずだし、助けを求める声もない。助けを求められたら、初めて今気づきました風に助けに行こうと決めた。私は知らなかったことに徹しようと、気づいてないフリを続けた。何なら穴に背中を向けて突然水やりを始めちゃったりして。穴に落ちたおじさんが、さりげなく地上に戻れるようにの自分なりの優しさ。
すると、やはりさりげなくおじさんは地上に戻ってきた。私はおじさんに気を使い、できるだけ早く撤収した。

そういえば、私は一人で夜のウォーキング中、突然深いドブに落ちた経験がある。正面から原付が走ってきていたので、たぶん原付の人は歩いていた人が突然いなくなってビックリしたとともに、たぶん相当面白かったと予想される。自分でもいまだに思い出すと面白い。友達に話すとみんな見事に大笑いしてくれる。人生のネタになっていて自分としてはドブに落ちたクセに満足している。友達の旦那は友達と歩いていて自分だけドブに落ち、一緒に歩いていた友達がゲラゲラ笑ったことに憤慨していた。私は笑ってくれた方が嬉しいが、怒る人もいるんだと知り、人が穴に落ちた時の反応としての正解が分からない。今日のおじさんへの反応も正解が分からず、永遠のテーマとなりそう。夜も眠れない。

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