映画「モーリス」感想 ネタバレ有

つい何気なく呟いた、学生時代に見た英国映画「モーリス」がなんと4Kデジタルで上映していると知り、公式サイトを見ると我が県の上映は無かったものの、隣県の映画館では今週までやっている事を知った私は…、観に行った、やはり。
だって、あの「モーリス」だ。私はリアルタイムで観たのだが、クラスの女子ほぼ観に行ったのではないかという、あの「モーリス」だ。
そして、学生時代でも観た後のモヤモヤ感が3日くらい続き、その当時にSNSなどあったら、毎日モーリスの感想を呟いていたに違いない。
そして、SNSをやっている今、狂ったように呟いている(現在進行形)

同性愛が犯罪とみなされていた20世紀初頭のイギリス、ケンブリッジ大学で主人公モーリスは輝くような美貌を持つクライヴと出会う。
友情だと思っていたモーリスは、クライヴからの告白に戸惑い、そして友情だと思い込もうとしていた己の感情に向き合う事になる。
このあたり実に巧みで、モーリスはいい所のぼっちゃん感が滲み出、実に素直な性格だ。男兄弟もおらず姉妹だけ、というのも頷ける。
対するクライヴは危険な香りがする美青年だ。あの顔で無邪気に告白され、抱きつかれたら、そりゃあメロメロになるだろう。
我々ならもう妊娠してしまう勢いだ。

そう、クライヴの告白は無邪気そのもの、好きだから好きと言ったのだ。そこにその後の関係の責任はない。
モーリスも最初は戸惑ったものの、窓から忍び込み(!)クライヴに愛を告げる。
その後付き合うわけだが、この時代同性愛なんて公にはできない。
うえに、クライヴは関係を持ちたがるモーリスに「身も心も汚れる」と言ってプラトニックな関係のままでいようとする。
そこは素直なモーリス、応じてプラトニックな関係のまま、友情と愛情の狭間の様な関係性が続く。
なんという、蛇の生殺し状態なのだろう。
だが、だからこそ、彼らはずっとこれから先関係を保ち続けたのかもしれない。

そこへ、ケンブリッジ時代の友人が同性愛の罪で逮捕となり、裁判を直に見たクライヴは相当なダメージを受ける。
これを機に、クライヴは関係性を見つめなおうそうとモーリスを説得、
勿論諦めきれないモーリスは嫉妬の炎を妹にまで剥き出しにしてしまう。
結局、上昇志向の高いクライヴは結婚し、クライヴを諦めきれないモーリスは「仲の良い友人」ポジションとしてクライヴ家と付き合っていく。
そして、催眠治療等で性的嗜好を矯正しようとするモーリス。だが、お仲間の勘なのか、クライヴ家猟場番アレックに窓から忍び込まれ、身体を許してしまう。
モーリスがクライヴの愛に応えたのも窓からなら、アレックの愛に応えてしまったのも窓からなのだ。

ピロートークでは心を許したモーリスだったが、冷静になると脅迫されるのではないかと恐れ、職場に来たアレックを見て関係がバレないかとヒヤヒヤする。
アレックはそんなモーリスの姿に脅迫じみた事を口にするが、本心ではなく、移民する前にもう一度モーリスに会いたい、そんな純粋な気持ちから来ただけであった。
(実際切符も買ったこともない描写だった)

その後、また関係を持った二人なのだが、今度はモーリスが「二人でどこかに行かないか」とアレックに言う。
ここイギリスでは同性愛者でいる事は難しい。というか不可能だ。
そこを見透かし、正論をはくアレック。やっていけるわけないだろうと、それは夢だと。
それ、クライヴにも言われていたじゃないか。
アレック一家が乗船するところへ、餞別(?)を持って訪ねるモーリスだが、肝心のアレックはいない。
そして船は出てしまう。モーリスは心穏やかじゃない様子であそこにいるのではないかと、一度呼び出されたボート小屋へ向かう。
途中、モーリスはクライヴに会い、「アレックを愛している」と告げる。
それは、クライヴへの別れの言葉なのだ。

私はもうこの時点では、クライヴはモーリスを愛してはいないんだろうと、昔観た時は思っていた。
が、今回見直してみて、妻がモーリスに彼女がいると言った時の揺らいだ表情、この時の表情で、
友人として傍に置いておけばモーリスとずっといられる、と思っていたのは実はクライヴの方であったのだと思った。
そして、クライヴが窓から見るのは、若いケンブリッジ時代のモーリス。
その時は無邪気に「愛している」と言えたのだ。
若く地位も名誉も関係ない時代だったから。

モーリスは、ボート小屋へ行き、やはりアレックを見つけ抱き合う。
「色々あって眠くなってた」というアレックの言葉に、もう抱きしめるしかないだろう。何もかも捨ててきたのだから。
そして、自分もこれから今までの地位や名誉を捨てる事になるのだから。

私は正直に言えば、愛なんてその時の脳のバグではないかと思っている。
そんな一時の感情で、全てを捨てるなんて愚かだと。
私でもおそらくクライヴの選択をすると思う。
若い頃はこの選択を受け入れられなかったのに、そこが今回歳を取って見直して変わった所であった。

そして、クライヴはクライヴでこの時点でも愛していたのだ、モーリスを。
(勘のいいと言われる妻の表情から、妻も感じ取っていたのかもしれない)
アレックとやっていくとなれば、友人としてもお別れなのだ、たぶん永遠に。
窓の外の若きモーリスに別れを告げ、青春と恋愛とに別れを告げ、
彼は自分の本心に蓋をしてこれからも生きていくのだ。

人生に正解は無いし、どちらの人生が正しいのか、良かったのか、
正直分からないし、答えも無いだろう。
でも、私は愚直でも己に正直に生きる道を選んだモーリスが、
眩しく羨ましく思えた。
たとえこれから困難だらけな道を進もうとしていても。

本当に今回30年ぶり(!)に綺麗な画像となって見直すことが出来、
正直、冒頭場面から泣いていた。自身の30年も思いながら。
そして、彫像のように美しい男達、ケンブリッジや田園風景の美しさ、質のよい服装、タバコを吸う所作のカッコよさ、上品であれという食事のシーン、
動く絵画のようなこの映画をまた観る事が出来て、そして長々感想を書く事が出来て、幸せだったといえよう。







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