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失言を吐いても生きる
僕は口下手だ。
おまけに人みしりだ。
口下手で人みしりの人間がムリヤリひねり出した一言は、85%失言だ。
昔、ナイロン100℃という劇団が大好きだった。
そこの舞台に立つのが夢だった。
そのナイロンを主宰する、劇作家で演出家であり、有頂天というバンドのリーダーでもあるKERAさんが、東京で1週間かけてワークショップをするという。
「ここでいいとこ見せて、KERAさんに覚えてもらおう」
僕は東京に向かった。
お金が無かったので、青春18きっぷで向かった。
8時間ぐらいかかった。
当時東京の大学に通ってた矢部くん(仮名)という友達がいたので、彼の部屋に泊めてもらった。
10日ぐらい居座ったので、その間彼女も呼べずに難儀したと思う。
その矢部くんの部屋を拠点に、毎日ワークショップに通った。
KERAさんの覚えは良かったと思う。
ナイロン100℃はコメディを基調とした劇団なので、ワークショップも笑いを求めるような課題が多かった。
僕はそこそこウケていた。
KERAさんにも、「キミ面白いねぇ。やっぱり関西人だからかなぁ」と言われた。
近いうちにあると聞いていたナイロンのオーディション合格に向けて、一歩前進した気がした。
ワークショップの最終日後、KERAさんも交えて打ち上げがあった。
ここでもアピールして、さらに一歩前進するぞ‼︎と思っていたのだが。
大事なことを忘れていた。
僕は口下手で人見知りだった。
稽古中や稽古後のテンション高めの時はいいのだが、気持ちが落ち着いてからサシで喋るのは苦手だ。
本来なら、ずっと尊敬してた人とじっくり喋れるチャンスだ。
聞きたいことも山ほどある。
でも言葉が出てこない。
そういう時にムリヤリ喋ると90%ぐらいの確率で失言となる。
僕「有頂天のアルバム、ほとんど持ってます‼︎」
K「ありがとう‼︎嬉しいなぁ‼︎」
僕「全部中古で100円で買いました‼︎」
その情報いる?
あの頃のバカな僕を、100回殴りたい。
K「……そうか……100円か……一所懸命作ったんだけどな……」
遠くを見つめたKERAさんの瞳は、心なしか潤んでる気がした。
オーディション合格に向けて、100歩ぐらい後退した。
その半年後ぐらいに、ナイロン100℃のオーディションがあった。
結果?
もちろん落ちたよ。
「100円事件」のせいではなく、単なる実力不足だけど。
課題として笑いを交えた寸劇をやったが、身の毛もよだつ静まりぶりだった。
ただ大倉孝二さんだけが、手を叩いて爆笑していた。
それが唯一の救いだった。
「いい人だなぁ、この人」
単なるゲラだったのかもしれないが。
あるいは、「ものすごく大きな失笑」だったのかもしれない。
ちなみに、この日僕がやった寸劇は、誰にも見せない。
墓場まで持って行く。
今となっては、落ちて良かったとも言える。
仮に受かっても、東京でのすみかも生活のことも、まるで考えていなかった。
「まずは矢部くんの部屋に転がり込もう。そんで『出て行け』って言われる前に、東京で働きながら一人暮らししてる彼女を見つけて、そこに転がり込めばええか。楽勝楽勝」
とか本気で思ってたから恐ろしい。
とりあえず、その頃の僕を100回殴ってもらっていいですよ。
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