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八月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
八月のお題は「遊」でした。

ようやくまとめができました。特に何が忙しいわけでもないのに妙に気力が萎えていた八月。暑かったから、と思っておきましょう。
ではふりかえり。

no.1
あの頃何をして遊んでいたかというと、名のつく遊びは特になかった。空にぽかっと浮かぶ雲を何かに見立てた。猫で、棒付き飴で、鯨で、自転車だった。流れる雲を追いかけるだけで一日遊べた。何にもない田舎だった。ただの、夏休みだった。ひたすら自由で、ばあちゃんの作る茄子のみそ汁がすきだった。

予選通過作。子ども時代を思い出して。
夏休みになると母の実家へ一週間ほどお泊まりに行っていました。従兄弟親戚みんな集まって、大人たちは毎晩宴会。子どもたちは連れ立って田んぼの畦道を走ったり、用水路を辿ったり、山の麓に一軒だけある駄菓子屋に駆け込んでお菓子を買ったり。古き良き夏休み、がまだあの頃にはあったのだよなぁ。
もう我が子にああいう夏休みはあげられないのです。無理に作るものでもないしね。今は今の、新しい遊びをしようね。

no.2
無邪気に遊ぶ子どもが家にいる。今日はかくれんぼをしているようで、押入れからかすかな笑い声がする。あちこち遊び回ってはお腹も空くだろうとお茶とおやつを置いておくと、いつの間にか少し減る。確かに我が家も迎え火は焚いたが、帰るおうちを間違えたのだろうなぁ。盆の小さな来客に西瓜を供える。

少し怪談風味。お盆やお彼岸の時期の、ふとどこかから匂う線香の香りが好きです。弔う人がいて、弔ってもらっている人がいる。ゆたかな営みだなぁと思って安心します。
いずれ私が死んだら、悲しまなくていいから、お盆に線香の一本でもあげて、少ししみじみしてもらえたら嬉しいなぁ。

no.3
遊び法師がついてくる。夕暮れにまぎれてついてくる。夕焼け小焼けのメロディが鳴り終わるまえに家に着かなきゃ、遊び法師に影をとられる。もっとあそぼうよぅ、と連れていかれる。耳をつんざく蝉時雨、終わらない黄昏、繰り返す夏休みの最後の一日。とらわれる。遊び法師になる。影の後をついていく。

怪談風味その2。遊び法師、という単語を思いついたから使いたかっただけ。
時々、凄まじい、としか形容のし難い程の夕焼けが燃え盛ることがありますね。隅まで全部染め尽くす。陽が落ちる寸前の、逢魔が時とはよく言ったもので。

no.4
くたびれて辿る家路の途中、夏の名残の蝉の音と、子どもの笑い声に足を止めた。夕暮れの公園で遊ぶ小学生たちを、君ら宿題は済んだのかいと目を細めて見やる。学び遊ぶ頃はとうに過ぎ、宇宙飛行士にも作家にもなれなかったが、平穏な日々の尊さは昔よりもよく知っている。幸せは夏の薄氷うすごおり。光がうるむ。

うすごおり。幸せは脆い薄氷の上に成り立っていて、いつ足下が割れて奈落に落ちてしまうかは誰にもわからない。
だから一瞬を大事に生きよう、なんて教訓めいたことでは救われない。恐ろしさも消せない。だから気づかないふりをする。自分と自分の大事な人たちだけは大丈夫、という根拠のない自信で。
考えると怖いので、考えないようにしています。

no.5
「遊びのつもりだった」という悪意に人生を壊されたので、遊びのつもりで余生を過ごすことにした。悪者退治はシューティング、仲間集めはRPG。間違えたらリセットするだけ。怖いものなんかない。気づけば頂点でレベルはカンスト。迷う。遊びのつもりで奴ごと世界も壊せるが、大事なものが増えすぎた。

140字小説っぽい! ぽくないですか?
幸せになることが何よりの復讐だとは言うけれど、程度の問題で、大切なものを致命的に傷つけられたらまあお前を殺して私は生きる、くらいは思いますね。




以上、ふりかえりでした。
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