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六月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
六月のお題は「流」でした。

相変わらず子どもは寝ず、深夜にひいこら書き上げました。
センチメンタル?な作品が多くなったように思います。湿っぽいとも言う。時節柄ということでひとつ。
ではふりかえり!

no.1
たまにはこんな夜も良いだろう。子ども達は眠り、夫の帰宅は遅い。缶チューハイを片手にベランダへ出る。炭酸を飲み下し、母でもなく妻でもない私は空を見上げる。今夜は流星群が見えるそうだ。だから星を探すのだ。見つけたら、そっと抱いて眠ろう。秘密の宝物は胸で輝いて、明日の小さな勲章になる。

連日ワンオペ育児が続いた夜に書いたやつ。疲れが滲んでますね。
少し前の話ですが、流星群の夜に流れ星を探したのは本当です。そして子どもの頃以来、数十年ぶりに流れ星を見られました。ただそれだけの、家族にも話していない私の小さな思い出です。

no.2
この浅瀬には《人が水に流した感情》が辿り着く。大体は粉々になるか、流れに丸く磨かれて原形がない。陽をうけてただきらきら光るだけになった、涙や憤怒の欠片達。小瓶に詰めて土産物屋に並べると時折買い求めてゆく人がいる。抱いて供養してやるか、水に混ぜて飲み干して胸に還してやるのだという。

珍しくちょっと気に入ってるやつ。
ビーチグラスって綺麗ですよね。言ってしまえばただのゴミなんですけど。時の流れに磨かれて、または削られて、すべすべとまあるくなって。
まあるくなった感情と、ときどき思い返すだけの感傷で生きていきたいです。激しい怒りとか憎しみとか、ましてや悲しみなんてもういりません。

no.3
わかります、流れを遮らずに会話に混ざるのは難しいですよね。場違いに泥水を吐き出してしまう気がして、いつも言い淀んでしまうんですよね。そうして生まれることなく胸の澱に葬られた言葉たちを、芽吹かせるのが僕の仕事です。感情の骸を養分に、泥濘に蓮が咲きますよ。ほら、その口から真っ直ぐに。

泥中から蓮が咲くイメージは気に入ってたんですけど、言い足りない感じ。140字に詰め込みきれなかったし、かと言って奥行きも足りない。うーん。
淀みなく流れる会話、言い淀んで濁ってしまう自分。
それでもどうか腐らず、蓮のように凛とありませ、と込めたくて込められなかった。うーん。

no.4
眠れない夜はベランダに出て、眼下に走る幹線道路を見下ろす。信号機の明滅に従って走り抜けてゆくヘッドライトの群れは、盆の灯篭流しを思わせた。積荷を運ぶトラックも先を急ぐタクシーも、あの光のひとつひとつにきっと物語がある。哀しく美しく平らかで汚い、生と死の夢想を夜の隙間にそっと流す。

ワンオペ育児の夜その2。
時間がない中で絞り出したお話は、だいたい自分が過去に思ったことを掘り下げる話になります。
二十代の頃、眠れない夜にベランダから車の流れを見つめて、独りじゃないんだなぁとぼんやり感じて安心していた。あのころ尖っていた神経も今はすっかり角がとれました。呼吸が楽になった。

no.5
新しい配属先は漂流物管理局とかいうところで、浜辺に流れ着いたものを保管していた。流木、小さな指輪、百年前のボトルレター、目が三つある魚の干物。リストアップしてネットに公開すると時々所有者が現れる。全身ぐっしょり濡れそぼった人が指輪を受け取りに来て、翌日、その人ごとまた流れ着いた。

『漂流物』をテーマにしたこちらが予選を通過しました。ありがとうございます。
最後をどうまとめるか結構悩んだんですが、お話のふくらみを持たせられたのが良かったのでしょうか。
デイヴィッド・ウィーズナーの『漂流物』という字のない絵本が好きです。



以上、ふりかえりでした。
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