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マイクロスクール 神戸ラーンネット・エッジに流れる優しい時間:インターンとして気づいた事・感じた事

1 マイクロスクールって何?

「ここに本当に学校があるの?」10月からインターンとして参加しているスクールに初めて行った時の感想です。

”マイクロスクール”という言葉も意味もよく知らなかった私は、インターン募集の記事を見てスクールに興味を持ち、インターンに応募する前に下見に行ってみたのでした。

スクールの名前の看板を見つけ安心したものの、中がどうなっているかは分からず、子ども達の姿も見る事が出来ないまま、その日は終わりました。川沿いの緑の多い環境の側にたたずむ場所を見て「なるほどなあ、学舎としてピッタリ!」と勝手に納得した事を思い出します。

今、インターンとして週3回スクールに通う日々を送っています。

「マイクロスクールって何?」と聞かれたら模範解答としてはネットにあがっているような次のような説明になるだろうと思います。

「マイクロスクール 」とは、徹底した少人数制にテクノロジーを組み合わせることで、一人ひとりの子どもに高度に個別化された教育を提供する、世界基準の新たな教育システムです。イデアスポット(idea spot)
マイクロスクールとは、近所で声を掛け合い、誰かの家や施設で少人数で勉強したり子どもの世話をする寺子屋的グループを指します。

徹底した少人数にテクノロジーを組み合わせることで、一人ひとりの子どもに高度に個別化された教育を提供する新たな教育のかたちといえるでしょう。(株式会社Lacicu)

では、これらの説明がそのまま私がお世話になっているラーンネット・エッジに当てはまるかというとYesでもあり、Noでもあります。
それはラーンネット・エッジが”10代の探究者”〈小5~中3〉を対象にした「探究学習」をメインにしたスクールだからです。“探究”というテーマに全てがひも付けられているスクールでの時間は、20年以上学校という組織で家庭科を受け持っていた私にとって、あまりに違う環境で初めは驚く事ばかりでした。

この記事では、スクールスタッフでも生徒でもなく探究の時間を共有ししている一人として少しでもスクールの事をお伝え出来ればと思います。

2 どんな事をしているの?

子ども達のスクールでの時間の過ごし方は学校とは違い、とてもゆったりしているように感じます。画像のように時間割はあり、科目によって区切られてはいますが、その日にスクールに来ているメンバーや科目を受け持つ講師、スクールの行事が近づいているかなど状況によって、時間の区切りは柔軟に変わります。

私が今年の3月まで勤めていた学校では、時間割は絶対で先生も生徒もそれに合わせて動いていたので、最初は戸惑った事を覚えています。さらに午前中に80分2コマという時間構成は初めてで、その時間の感覚にも最初は戸惑いました。

ただ時間割について一番興味を持ったのは時間割の後半にある独特な科目でした。週のはじめの2日間は分かりませんがインターンとして入らせてもらっている後半の3日間はラーンネット・エッジ特有のとても個性的な科目が揃っています。

「アート」は毎週、日替わりで様々な講師の方々が受け持ちます。美術鑑賞・造形・絵画・図画など、本当に多様で創造性を楽しみながら養えるとても楽しくて真剣な時間です。(他の記事も参考にご覧ください。)

「音と身体性」は2人の講師の方々が分担していて2学期は「日本の音」というテーマのようで、時間のはじめに発声の準備もかねて身体を動かしたり日本の音についての授業を受けたり、歌を歌ったりした後に歌舞伎や浄瑠璃などを教室で鑑賞しています。
子ども達の反応を見ながら分かりにくそうな所は一時停止をして説明するなど、少人数ならではのきめ細かい配慮が行き届いた内容で学校との大きな違いを感じています。

「自由への教養」は知的好奇心を思いっきり刺激される特別な時間です。その問いの面白さと多様な視点、機器を駆使した進行の仕方は私にとってはとても新鮮です。
ニュースなどを題材にした問いには子ども達がタブレットを使いチャットにj自分の考えや意見などを書き込んでいきます。それを講師がしっかりと広いフィードバックをしていきます。その後はグループワークが始まります。子ども達への題材の投げかけ方やいろいろな意見を引き出していく巧みさと、子ども達のどんな意見や考えでも丁寧にフォローしていく進め方はマイクロスクールならではのものだ思います。(他の記事も参考にご覧ください。)

「体育」は年齢的についていくのが無理なので参加していませんが「マジ探究カンファレンス」は子ども達が毎日午後にそれぞれ取り組んでいる「マジ探究」の途中経過などをシェアしたり意見を聞いたりする時間のようです。

でも、状況などに合わせて子ども達とスクールスタッフ達のコミュニケーションの時間となるようで、今はラジオ形式で子ども達から質問を受け付け、それに対して他のメンバーやスタッフが自分の考えや答えや意見を言う時間になる事もあります。
これも、私から見ると、とても上手に思春期の子ども達の疑問や悩みや考えを引き出し、他の人の視点や考え方を知る事が出来るよく考えられた取り組みだと感じます。スクールスタッフの方々が様々な工夫をしながら子ども達のナビゲートをしていると感じています。

残念ながら新参者の私はなかなか出来上がった輪に入っていく事が出来ず、傍観者の立場から抜け出る事が出来ないのですが、そばで見ていると子ども達とスタッフの距離感が程よく、とてもいい関係に見えます。

「Flex」は学校でいうとホームルームの時間のようでしす。スクールのイベントがある時は、その準備をする時間。今は年度末に実施予定の修学旅行の話し合いをしています。これも出来るだけ子ども達主導で丁寧に丁寧にそれぞれの意見や考えを聞きながらスタッフ達がナビゲートしていきます。

午後の「マジ探究」は子ども達それぞれが自分のテーマに沿って自由に活動をする時間です。スクールに残って創作活動をする子もいれば、何かを調べている子もいて、スクール以外の場所に行くために午後は帰る子もいます。

この時間は好きな事にとことん取り組める時間ですが、決して放任ではなくスクールスタッフが2人で子どもの様子を見ながら面談などを通してナビゲートしています。子ども達もただやるだけではなく記録を残しながら学期末の”探究のプレゼンテーション”に向けて自分のペースで活動をしているようです。

科目については年度によって変わる場合もあるそうで、常に子ども達にとってベストな学びや探究の切り口となる内容を選んでいるようです。

3 どういう雰囲気?

このスクールに流れる時間は本当に穏やかで優しい時間です。退職前に中学や高校で家庭科を受け持っていた時のような時間に追われる感覚は全くなく、子ども達を追い立てたり急かしたりする必要がありません。

かといって野放図で騒然としているわけではなく“自律”と言葉が一番ぴったりくる感じです。授業後の片付けや掃除なども教室内に書いてある自分の役割を確認し、さっと行動する様子は見ていて清々しい気持ちになります。

また、このスクールではタブレットやスマホやノートPCを子ども達が使っていても休憩時間にゲームをする子は誰一人としていません。室内にある本を読んだり、好きな事をしたり、おしゃべりをしたり、その時々に自分がしたい事をして過ごしています。

以前勤務して学校では大体どこでも、休み時間になるとスマホのゲームに熱中して大声を出したり何かを言い合ったりする生徒達が多く、にぎやかだったのですが、ここではそういう風景が全く見られないのも大きな特徴なのかもしれません。

このスクールは第3者であるインターンの目から見ると、子ども達とスクールスタッフが互いを信頼し合っているとても居心地のいい場のように見えます。それは多分、子ども達のナビゲートをするスクールスタッフの2人が、子ども達の考えや意見を尊重し、とても大切にしているからだと感じます。

学校に勤めていた時は教師主導で1クラス40名以上の生徒達の意見や考えを尊重する余裕などはなく実習も授業も自分で全て仕切っていましたが、ここでは全てが「子ども達の考え」が優先されます。

それは逆に言うと自分達で責任を持って判断する機会がとても多い事を意味し、その経験は彼らが社会に出た時とても役に立つのではないかと思います。

4 気づいた事・感じた事

1か月間、インターンとしてマイクロスクールと呼ばれる場所で過ごして来て、実際に一緒に授業を受ける前に気になっていた事はかなり解消されました。

それは少人数で過ごす時間が長い事で子ども達の人間関係が固定化してしまい、視野が狭くなるのではないかという事です。この点に関しては科目の内容がバラエティに富んでいる事とオンラインなども使い通常の講師以外のゲストが授業に入る事、科目を受け持つ講師が複数いる事で科目の内容に対して多様な視点ややり方が入る事などで解消され、子ども達の視野は広がり人間関係も豊かになるのではないかと感じました。

逆に共に過ごす時間の中で気になった事は、私が学校で受け持っていた「家庭科」を通して得られる生活知識や自立に向けての調理などの技術、お金や消費者問題、家族関係、暮らしに関わる社会課題、衣食住生活の科学的な視点などは「どこで学ぶのだろう?」という事です。

もちろん、ラーンネット・エッジでは、いろいろな科目を通して暮らしをテーマに考える機会は多くあるのですが、家庭科の領域をメインに扱う時間が見あたらないのは少し寂しく感じています。

ご家庭ごとに考え方ややり方は違うのだろうと思いますが、子ども達には家の手伝いや家族との会話などを通じて是非身に付けて欲しいなあと感じています。

この点については私自身が動画配信などを通して何か役に立てる事はないかと考えるきっかけともなり、今検討している所です。

5 まとめ

他のマイクロスクール(オルタナティブスクール)などの事は分かりませんが、ラーンネット・エッジは基本的に宿題もなければ学期毎の評価もないそうです。「では子ども達がスクールでどんな風に過ごし、どういう事を学んだか、どういう成長があったかなどはどうやって分かるのか?」

それは学期末に各科目を担当している講師の皆さんからのメッセージやスクールスタッフからのメッセージが書かれたLetterを通して分かるようになっているそうです。

そのLetterには子ども達自身による振り返りもエッジ特有の方法で行われ、記録されているそうです。

私のインターン生活は来年3月まで続く予定です。20年以上家庭科教師をして来て、退職後にこういう形で学校とは真逆の学びの場に関わらせてもらう事になるなんて想像もしていませんでした。

最初にラーンネット・エッジの記事をnoteで目にした時【#積極的不登校】という文字が飛び込んで来て「それって、どういう意味?」と不思議に思い強く印象に残ったのですが、今スクールで子ども達と過ごしていて、その意味がよく分かります。

不登校という言葉からは「学校に行けなくなった」というマイナスのイメージを持つ人が多いのではないかと思うのですが、ラーンネット・エッジに来ている子ども達を見ていると、かなり違う印象を受けます。「学校には行かずに自分が本当にしたい事を大切に時間を使いたい」という感じのポジティブな印象です。

週3回のインターン生活はこれからも続くのでスクールについての印象やイメージが変わるかは分かりませんが、マイクロスクールやオルタナティブスクールに関心がある方々にとって少しでも参考にしていただけるようにラーンネット・エッジについての事をこれからもお届け出来ればと思います。長い文章をお読みいただきありがとうございました。

この記事に書いてある内容は私自身のイメージや意見などが中心です。スクールについての詳しい内容は下記のページからご覧ください。


〈終わり〉