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本から考えてみた未来のお金と暮し 「ビットコインはチグリス川を漂う」

1 本との出会いと背景

ぱっと目につくオレンジの蛍光色。タイトルが心にひっかかる。さらに副題に興味がわいている。でも、部厚すぎる。2学期の家庭科のパーソナルファイナンスの授業で使えるように、せめてマネーの新常識(って言っていいのか分からないけど)の概要を知る事が出来ればと思い読み始めた。

さっき、4-6月期の実質GDPが戦後最大の落ち込みであると報道された。コロナ禍での景気悪化、倒産件数の増加(秋以降、もっとひどくなると言われている)、雇用状況の悪化、どれをとっても不安材料ばかりの夏。感染予防でお盆だというのに人もあまり動かず、経済を回しながらの感染防止がどこまで出来るのだろうと不安ばかりが募る。

多分、もうかっている企業も人々もいるだろう。でもコロナの終息が見えない現状で、これからの経済や自分達の暮しやお金はどうなるんだろうという暗い気持ちが蔓延しているのも事実だ。だとしたら、もっと違う視点で現状を見る必要があるのかもしれない。

2 私たちに求められている事

本の初めの方に出てくる内容で、印象にのこったのは次の部分だ。

未来のパラダイムを形づくり、それが私たちをどこへ連れていくのかを知るために私たちはマネーに関する固定観念を調整して、未来のパラダイムを探究し始める必要がある。

(パラダイム:ある時代のものの見方・考え方を支配する認識の枠組み)

では、どんな固定観念(パラダイム)を私たちは持っているのだろう。これは世代によって大きく異なるのではないかと思う。私にとって、マネーは紙幣や硬貨の物理的なもの。これが未来はデジタル化されてビットになる。さらに私にとってマネーは中央銀行が発行するもの。この中央化が分散化され、中央銀行の役割は形骸化していく可能性が書かれている。

3 現金の特徴

今では想像も出来ないと思うけど、私の父は現金で給料袋を持ち帰っていた。袋の中の札束の厚みと硬貨の重みが幸せの象徴だった。高度経済成長期真っただ中だったから。右肩上がりは永遠に続くと国民みんな信じ切っていたかもしれない。

その現金は紙幣の印刷や硬貨の鋳造などで作られる。その事実は知っていても、それに掛かるコストや、それに関わる政府の発行収益の事などは深く考えた事がなかった。

さらに、その現金は持ち運ぶ時は重く厄介な代物などという発想もなかった。ATMでの現金の引き出し,レジでの現金での買い物、それに伴う現金輸送や夜間金庫の管理などの一般の人には見えにくいコストは意識にのぼる事が少ない。

また、局所性という観点もある。信頼のよって成り立つもの。一部の場所ではという事だ。10代の若者がゲームの中で特定の相手とのやり取りで、的確に相手を評価している例が分かりやすかった。

現金は次のようなデメリットも持つ。それは現金に匿名性があるがために起こる事だ。例えば、盗難や不正使用のリスクがある。この恩恵を受ける現金のヘビーユーザーとなっているのは、犯罪者や地下組織という箇所を見たとき衝撃を受けた。自分がマネートラブルに巻き込まれないようにする対策は考えるが、こういう視点でマネーをとらえた事はなかったから。

4 変わって行くマネー

日本では、まだ現金でのやり取りが多いが、マネーの完全な非物質化は確実に進んでいる。マネーをビット(データ)としてとらえ方だ。その形式は多様。例としてあげられているのは、クレジット、電子ゴールドなど。日本ではなじみのないものあった。

さらに、コミュニティの中で使われるものとして、イーベイ、ゾパ、Zキッシュ、仮想通貨やペイパルなど、聞いた事のないものも含まれている。

マネーの仕組みや人が扱うマネーのシステムは、今あるシステムが絶対無二ではない。

この事を痛いほど思い知らされる。ビットコインが話題になった時、自分なりに仮想通貨を理解したいといろいろなセミナーに参加した事を思い出す。この本の中にも当然、ビットコインの事は出てくる。本の中で出てくるビットコインを使う理由を一部抜粋すると次のようになる。

安価で取り消し不可能なオンライン上の交換媒介物が求められている(21世紀の現金)
匿名で代替可能な交換媒介物が求められている(21世紀の硬貨)
政府の絡まない硬貨が求められている(21世紀の価値の貯蔵手段)

一時期の投機目的に見えたビットコイン騒ぎは今はそれほど見られなくなったように思う。だけど、ビットコインの存在やそれに伴う共有台帳などの考え方は着実に広がったと思う。

5 マネーの変化を促すモバイル決済

そしてマネーの概念を変えていったもう一つの携帯はモバイル決済ではないかと思う。スマホ一つで完結する非接触型の決済手段の普及。これにより、個人間や店舗間のマネーのやり取りも可能になった。さらに、新たなセキュリティインフラの構築についても触れられている。

私にとってショックだったのは、交通系やコンビニでのモバイル決済の導入の目的に考えが至らなかった事だった。もうけではなく、交通系ではコスト削減のため、コンビニ系では小口現金の扱いを減らすためとある。大局のマネーの巡りのようなものに気が付かないのが情けない。

ここで、アフリカのエムペサの話も出てくる。この仕組みによって、電話文化から増築していけるインフラが実現し、創始者が予想もしていなかった広がりを見せたという箇所は興奮した。さらに、この送金システムは完全に銀行を切り離したものだ。銀行へのアクセスなくマネーを動かせるお金の柔軟性をアフリカの人々が受け入れた事によってエムペサは予想をはるかに超えた普及を見せたらしい。

既にある古いものを使って新しい制度を創り出していけるというのは可能性を感じる。(この本は、”マネーテクノロジーの未来史”という副題だが、これまでのマネーの歴史も詳細に書かれていて読みごたえがあった。)

6 未来のデジタルマネー

このテーマを私自身のフィルターを通してまとめていくのは難しい。ここでは気になった語句やフレーズを紹介できればと思う。

マネーの新しいイメージ:記憶媒体付き、プログラム可能

アイデンティティの進化:テクノロジーとパラダイムの複雑な共進化

ソーシャルID・評判経済・異なる価値観を包含する複数のマネーの出現

7 まとめ

未来予想は困難。想定されるシナリオについて考え始める大切さ。

最後のまとめとして、印象に残り、その通りだと思ったフレーズを抜粋した。本の中に出てくるように、これからの時代は、コミュニティごとに異なるコミュニティで働くマネーは違ってくるのだろうと思う。シームレスで世界規模の交換手段が提供されてとしても、どのコミュニティに属して生きていくかで、その意味は異なってくるのではないかと感じた。

追記

膨大な情報量とマネーの歴史、今後の展開などについて、どこまで読み込めたかは分かりません。この本の発行は2018年です。本の中での著者の記述では2016年頃に書いている部分もあるようです。この未来予想(?)が、今の想定外の連続の社会でどれだけ通じるものがあるかも分かりません。

ただ、マネーが変遷していくという事は事実です。それを個人として、自分が属しているコミュニティのメンバーとして、どう受け止め何を選択していくかは今後の人生で大きな分かれ道になってくるのだろうと思います。私自身は、マネーに対する感覚が大きく分かったのを実感しています。(読後、このタイトルの持つ意味の深さに感動しました。)

解釈の違いや捉え方の浅さ、つたない文章の読みにくさなど、いろいろあるかもしれませんがお許し下さい。