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マイクロスクールならではの問いの広がりの面白さ〈自由への教養〉:探究の学びの場でのインターンでの気づきや感じた事④

1 「自由への教養」って何?

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神戸にある小学校高学年から中学生を対象にしたマイクロスクール〈ラーンネット・エッジ〉の時間割には「自由への教養」という時間があります。メインの矢萩先生がカリキュラムを作り、今は週替わりで矢萩先生とスクールスタッフがオンラインとリアルのハイブリッドで授業を行うスタイルです。

「こんな授業を小学生や中学生が受けてるんだ!」この時間を初めて見学した時に感じた強烈な印象は今でも忘れる事が出来ません。

それは、今年の7月、インターンとしてお世話になる前の事でした。マイクロスクールという定義に”少人数”と”IT”というのが入っているのは知っていましたが、ITの機器を通して講師と生徒達が双方向で活発にやり取りしているのをまじかで見た事がなかったからかもしれません。

在職中も40人以上のクラスでタブレットなどを使った使った授業を担当した事はありましたが、何かの検索や実習でのグループワークなどが中心で使いこなす域まで行かずに退職したから余計に「すごい!」と感じたのだろうと思います。

「自由への教養」という時間がどんな時間かを一度もその場に居合わせた事がない方にお伝えするのはとても難しいと感じます。

オンラインの場合はモニター越しに繰り広げられる活発なやり取りが
ライブでぱあっと進んで行き
その展開は誰にも予想出来ません。
でも講師と子ども達の対話の方向性は
きちんとあり教養というテーマを掲げている科目らしく教養に結び付く学びのタネは
様々な場面にちりばめられています。

リアルの場合でもプロジェクターで
映し出された画像を共有しながら、
思い思いのスタイルで自由に
スクールスタッフとのやり取りを行います。その時間に行う内容については
事前に矢萩先生とスタッフの間で
しっかりした打合せが出来ているようで、
とてもスムーズにナビゲートしていきます。(ラーンネット・エッジでは講師やスタッフは教えるや指導するではなく
子ども達をナビゲートしています。)

その時間がうるさくて大変かと言えば、
子ども達はタブレットやノートパソコンを
使ってチャットに書き込んで
自分達の意見や考えを伝えていくので
教室自体はとても静かです。
リアルの場合も誰かが発言している時は
”聴く”というルールがしっかり守られているようで和やかな雰囲気で進んでいきます。(マスク超しで聞こえにくい時もありますが…。)

さらに時間が進むとグループワークが
数回あり、ここで取り上げる内容も
問いも(私の目から見ると)
とてもよく考えられたトピックで
10代の探究者(このラーンネット・エッジは探究の学びを中心にしたスクールなので)
の関心や興味を引くようなものばかりです。

このラーンネット・エッジ特有の時間の
説明はとても難しいのですが、
インターンとして参加した印象などを
まとめさせていただければと思います。

2 最初のトピックは?

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矢萩先生の回の授業の最初のトピックは
”地震”でした。その前日に関東地方が大きく揺れた事もあり話はそこから始まります。
誰かが「マグニチュードと震度って何が違うんだっけ?」とつぶやくと
別の子がさっと調べて説明します。
さらに矢萩先生がテーマを広げ
”地震国日本での揺れに対する反応”と
”地震のない国の人の反応”などの
話を展開していきます。

そこから”地震への強度”という観点で
建築の話に広がり、
子ども達はそれぞれ自分の考えをチャットに書き込みながら、
ある時は講師の矢萩先生の話に
耳を傾けながら自分の中の
教養の世界を広げていっている
様子が見られます。

その過程が講師の意図というより
教室の中での、
その時にそこに集うメンバーの中で
起こる化学反応のような感覚で
傍で見ているととても面白い!と感じます。(マイクロスクールでは学校と違い
曜日ごとに登校するメンバーが変わる事
もあります。)

学校でも何か大きな事が社会で起こると
科目の特色を踏まえて
授業と関連付けて取り入れるのは当たり前ですが、
ここまで丁寧に子ども達のつぶやきを拾い、静かな中で学びを深めていけるのは
マイクロスクールならではかと思います。

ただ今回は男の子が多く地震などの興味や
関心が深い子どもが多かったために、
このような広がりのある展開になりましたが、違う状況だった場合は
別のアプローチがあったのだろう
と思います。

3 リベラルアーツ的思考?

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次のテーマはネットで話題になった事を
画像などでシェアしながら、
問いかけをしていく時間でした。
確かスライドの資料には”リベラルアーツ的思考”というフレーズがあったと思います。

「リベラルアーツって何だっけ?」と思考が一瞬止まります。リベラルアーツを簡単に言うと下のような説明になるようです。

シンプルにいうと、『分野を超えて幅広く学び、広い視野で物事を考えるための学問』という意味です。(chewyより)

この意味を知ると”なるほど!”と納得です。「自由への教養」の中のこの時間では
世間で話題になっている事を取り上げて、
その見せ方を工夫し、
子ども達に内容を推測させたり、
なぜ話題になるかを考察させたり、
それは社会でどんな意味を持つかなどを
まとめていく時間だからです。
(これはあくまで私の視点ですが…。)

詳細はお伝え出来ませんが
取り上げる話題もタイムリーだし
「え、本当にそんな商品を売っているの?」とか「そんな事が起こっているの?」
私にとってはドキっとするような内容でした。

子ども達も身を乗り出し興味津々。
これこそが主体的で対話的な深い
学びの姿なのだろうと傍で感じ入ります。

さらにグループワークでの取り組みは、
ただ単に感想を言い合うだけでなく、
例えば何かの目新しい商品を取り上げた場合は自分達のアイデアで新商品を考えさせる
時間もあります。
あるいは一つのモノを通して
もっと違う使い方は出来ないかなど
縦横無尽の問いが子ども達に
投げかけられていきます。

こうしたワークを通して
イメージする力や発想力、
今はない何か新しいモノやサービスを
創造出来るクリエイティブな力の基礎が
つくられていくのかと感じます。

グループワークをした後の全体での
シェアの時間も内容が濃く
講師の鋭い視点で子ども達の独創性をほめたり違う見解を示したりする事で子ども達の中にある多様な好奇心のタネが育ち、
それぞれの持つ得意な力も育まれて
いくように思います。

4 地理を探究する?

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最近の「自由への教養」は地図について
いろいろな角度から考察をしているようです。
地図の種類や用途・目的など基礎的な知識の部分は授業の形式で進みますが、
それでも子ども達への問いかけをしながら
進める形式は変わりません。
中には地図に詳しい子どもがいて、
その子が説明をしてくれる場合も
あるからです。

地図の歴史などに触れながら、
地図自体にも地図上の世界にも
関心を向けるように話の流れを持っていく
進め方はとても自然でいいなあと感じました。
そして、この内容は次の週のスクールスタッフによる授業に引き継がれていきました。(伊能忠敬についてはベネッセ教育サイトからリンクを貼らせていただきました。)



ひとしきり子ども達からの意見を聞いた後は10分程の伊能忠敬を取り上げた楽しい動画を視聴し、まとめとなります。
ここまでのやり取りもスタッフからの働きかけはあるものの
設定された問いについての考察の仕方などは子ども達の主導で進みます。
こういう分野について得意な子が
「地理を探究する」時間をリードしていき、他の子達もそれに刺激を受けながら
いろいろな事を考えている様子でした。

この時の問いは、ざっくり言うと”計測方法”など地図作りに関わる事でしたが、
合間に出て来る子ども達からの疑問は
「当時の生活様式は?」とか
「人の歩幅って実際にどの位?」とか
歴史や人体に関わる事など様々です。

そういう質問が出て来る度に
スタッフが実際にやってみたり
ネットで一緒に調べたりして、
答えを子ども達と一緒に探していきます。
それは学びを深める探究の時間。
子ども達は気づいていないかもしれませんが、こういう時間を通して
探究に必要な”リサーチの方法”や
”問いの作り方”を無意識に
学んでいるのだろうと思います。

ここで気づいたのはスクールには
「無関心」な子」や「邪魔する子」がいないという事。
これは授業中に発言する上での
心理的な安全を意味します。
子どもは、その時のテーマに関わる
どんな事を言ったとしても受け入れてもらえるという安心感のもと、
のびのびと発言出来ます。
在職中そういう雰囲気にならない
クラスもあり苦労したので
”安心して何でも言える関係性を築く”事
が出来ているこの場は
すごいなあと改めて感心しました。

5 それって何?

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スクールスタッフによる「地理を探究する」のまとめは、地図についての矢萩先生からの問いを子ども達と一緒に考える事でした。
この問いも捻りがきいていて
「さすが!」と思いました。
(問いの内容は省略します。)

地図つながりでグーグルマップや
グーグルアースなども問いに出て来たので
グーグルアースなどの実際の映像を
映しながら授業は進みます。
グーグル・アースを使って
子ども達に行きたい所を聞きながら、
仮想ではありますが、
皆で一緒に子ども達が世界の中で
"興味を持った場所に行く”という
体験のシェアをします。
一人で見るのとは違い
様々な視点が入る事で
思いがけない発見なども多く
「探究の楽しさ」を体感できる
時間になったようでした。

最後に出て来て、
この日一番驚いたのが”アースボール”です。(詳細は下記からご覧ください。)
手のひらに乗るくらいの
地球のカタチをしたボール
(地球儀の地球の部分だけ
取り出したような球)に
スマホやタブレットをかざす事で
いろいろな情報が見えるというものです!

子ども達は教室に新しく加わった
”アースボール”に夢中になっているようでしたが、一区切りついた所で
この時間のまとめです。

地図についての矢萩先生からの
問いについて改めて子ども達から
出て来た意見や考えをまとめます。
この内容についての矢萩先生からの
フィードバックは次の時間のお楽しみです。こうしてあっという間に
「自由への教養」の時間は終わりました。

6 まとめ

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ここまでインターンとして参加した
私の目を通した授業や
子ども達の様子などを
まとめさせていただきました。

この矢萩先生は下のプロフィールにも
あるように「自由への教養」を
担当されるのにふさわしいベテランの講師です。
子ども達の何気ない言葉から
当日のテーマに沿って学びを広げる方法や「どこからそんな話題を見つけてくるんだろう?」と思ってしまうようなユニークで
子ども達が興味を示す題材探し、
実際に対話が始まってからの対話のテンポの良さやグループワークでの
適度な時間調整、フィードバックの素晴らしさなど、いろいろな面で学ばせていただく事が多い方です。

矢萩邦彦(やはぎ くにひこ)
実践教育ジャーナリスト/リベラルアーツ・アーキテクト/株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO/知窓学舎 塾長/教養の未来研究所 所長/一般社団法人リベラルコンサルティング協議会 理事/Yahoo!ニュース 個人オーサー・公式コメンテーター/HIS『探究Journey』監修・コンセプター/『探究ホーム』プロジェクト クリエイティブフェロー・エバンジェリスト/SHOW BALLET JAPAN監修・顧問/聖学院中学校・高等学校 学習プログラムデザイナー/ラーンネット・エッジ『自由への教養』 カリキュラムマネージャー/国家資格キャリアコンサルタント。

この矢萩先生と(私がインターンに行っていない曜日に)数学を担当されている谷口先生のお二人が登壇される「エッジ・カレッジ」というオンラインイベントが開催される予定です。詳細は下記をご覧ください。

エッジ・カレッジは久しぶりの開催という事で、マイクロスクール・オルタナティブスクールなどに興味があり保護者の方や探究学習に関心のある教育関係の方にとってはとても貴重な機会になるかと思います。
このイベントは講義形式ではなく、
参加者の皆様と一緒に
子ども達の思考や学び方を考える
内容という事です。
通しで3回受講される事を
おすすめします。

ラーンネット・エッジについては
下記よりご覧に下さい。

長い文章をお読みいただき
ありがとうございました。
この記事が何かのお役に立てば幸いです。〈終わり〉