「ベイジン」本を読んだ感想

「ベイジン」 真山 仁(著者)

 2005年から2008年にかけた日中を舞台に、北京オリンピック、そしてその開催に合わせた大連の世界最大の原子力発電所の建設を題材にした物語。

 原発の日本人ベテラン技術者の田嶋、中国共産党の汚染を取り締まりをする中央紀律委員会出身の原発運転責任者学耕シュエグン、北京五輪記録映画の若き女監督の麗清リーチンの3人を主人公として、「中国人とはどのような価値感を持っているのか、日本人と相互理解が可能なのか」という大きなテーマを重厚な人間ドラマと共に描いていく。

 中国では歴史の流れ的にも超個人主義の文化であり、汚職、裏切り、盗みは当たり前で、絶対的な安全、紀律が必要な原発でもそれは問答無用で発揮される。

 最初はやはり相容れない日中間だが、原発を安全に稼働させるという共通の目標に向かって行くことで、真剣に向き合うことで、互いに対する認識が良化していく。

小日本シャオリーベンのくせに」、「中国人はどうしてこうなんだ」と啀み合っていた両者の間に信頼関係が生まれていくのには、グッとくるものがあるし、ラストシーンで田嶋と学耕が2人で自分の命を賭してまで、中国と世界の希望の光を守ろうとする姿には心が打たれた。

 この作品ではオペラ「トゥーランドット」が何度も引き合いに出され、トゥーランドットの姫の難題に立ち向かうカラフ王子が主人公たちのメタファーになっている。それも相俟ってなのか、この作品全体がオペラのように登場人物の心情の変化に何か特別なものを感じ、物語がとても美しく見える。

 こんなに美しいと感じる小説は中々無い。

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