へいぼんのうた


 だれだってきっと、そう、誰かになりたいと感じたことはあるはずだ。
 憧れのあの人、テレビの中の輝く人たち、ゲームの勇者、映画のヒーロー。そう、確かに、僕だって、あの日まで、誰かに、何かに、何者かに、平凡以外のものになれると思っていたのだった。
 
 思っていたけれど、現実は、僕にゆめを見せてはくれない。僕は平凡でなんの変哲もないただの一人だ。
 それでいいといってくれる人は世界に大勢いるだろう。けれど僕はそれには耳を貸さず、ただただ平凡を抜け出すことだけを考えていた。
 
 スポーツ選手を目指した。
 エンジニアを目指した。
 教師を目指した。
 医者を目指した。
 絵描きを目指した。
 
 そのすべてが、僕を傷つけ、平凡にしていく凶器だと知らずに。
  
 
 何者にもなれないとわかったのが何時だったか、それは他でもない、僕だけが知っている。
 
 
 
(へいぼんのうた)