オムライスを中心に、世界はまわる
祝日、朝8時。
布団でしばらくゴロゴロし、朝ドラの前に起きた。
朝ごはんを食べるか食べまいか、迷う。
これから観に行く映画が終わるのは、13時過ぎ。
せっかく出掛けるのだし、ランチは何かおいしいものを食べたい。
そうだ、久々にオムライス・・・!
オムライスを思い浮かべると同時に、頭の中でカロリー計算がはじまった。
ケチャップライスをたっぷりの卵のおふとんでくるんだ幸福なごちそうは、ゆうに1000キロカロリーはあるだろう。
コロナ禍で体重が増えぎみなので、
ここで朝ごはんをしっかり食べたらえらいことになりそうだ。
迷った挙句、朝ごはんはあきらめ、高カロリーランチにそなえて甘酒とカフェオレだけお腹に入れて、
映画終了までしのぐことにした。
観に行ったのは「Coda あいのうた」。
折角の映画も、はじまってしばらくは、物語を追うより、朝ごはんを食べずに観に来たことへの後悔のほうが頭を占めていた。
いくらオムライスを美味しく食べるためとはいえ、空腹が長く続くと集中力が持たなくなることは自分がいちばんよく分かっていたのに、なんという不覚。
物語の最後まで集中できるだろうか。
しーんとした場面でお腹が鳴ったらどうしよう。
朝ごはん代わりに軽く食べられるものを家に常備しておくべきだった。
隣のひとは早くも泣いてる風だったのに、自分の脳内は映画そっちのけで、「ハラヘッタ」由来の雑念一色。情けなくなった。
とはいえ、映画はとても素晴らしく、いつのまにか空腹を忘れるほど引き込まれていた。冷静に観ているつもりだったのに涙が勝手にあふれてきて止まらず、心よりも身体が先に反応するような不思議な現象だった。
何はともあれ結果オーライ。
無事、空腹に打ち勝つことができ、ホッとした思いで映画館を後にした。
(素晴らしかった映画については、機会があれば書きます)
さて、ここからが今日の本番。
映画館からほど近い、雑居ビルの地下一階にそのお店はあった。
オムライス、950円。
主役のオムライスを取り囲むのは、サラダ、小鉢、おしんこ、スープ、デザートのダノンヨーグルト。
全部まとめてこのお値段。
立地を考えれば、かなり良心的。
ネットでオムライスを検索したとき、映画館からの距離の近さと、見た目のトロトロ具合を重視した。
オムライスを食べるなら、フォークを入れてとろっと卵が流れ出すくらいのゆるさがいい。
家で作るオムライスは卵を半熟に仕上げる技がないため、ぺたっとしたかたまりになってしまう。
トロトロのオムライスは私の憧れだった。
待つこと数分、やってきたのはデミグラスソースの泉に浮かぶ卵の島。
この出会いのために、今まで空腹と向き合ってきた。いよいよの実食に、心が躍る。
オムライスって、見ているだけでも幸せな気分になれる。
ソースの赤茶けた色に映える、たまごの黄色。
平たい、大きなスプーンですくい、口にはこぶと、するするととろけた。
ひと口ひと口、噛みしめるように味わう。
「んー--!!!」声が出そうになる。
サラダ→きんぴらごぼう→オムライス→コーンスープ→またオムライスの無限ループ。
お腹をすかせてきてよかった。
高カロリー万歳。
明日を思い煩うことなく、目の前のたべものを味わえることの奇跡。
映画に泣き、オムライスを食べる。
ドラマチックでもなんでもない、ただの普通の一日なんだけど、人生の幸せな瞬間って意外とこんなところにあるような気がした。
サイドメニューまで残さず平らげたあとは、腹ごなしに3駅分歩いてみた。
高カロリーを我慢しなかった代わりに、いつもよりも気持ち多めに動くのだ。
振り返ればすべての思考や計画がオムライス中心にまわっていた一日。
人生のなかの点にしかすぎない一瞬でも、その日私の世界の中心に、確かにオムライスはいた。
そんな日を増やせたら、人生はまちがいなく幸せだ。
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