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バラとおじさん

近くの公園にバラが咲き始めた。
認知症の義母の車椅子を押して散歩へ出た。

公園内をグルッと一周して、入り口まで戻ってくると、外から、工事車両を誘導されている、強面のおじさんが、こっちを見ている。
義母が抱いている、ぬいぐるみの犬が喋っているので、それが珍しいのかな?と思い、目をそらした。

しばらくすると、そのおじさんは、ズンズン近付いてきて、
「見ててあげるから車をとってきな。」とおっしゃった。
公園の駐車場が少し離れた所にあるため、車を回してきて、広い場所に停めた方が、ゆっくり乗せられるだろうと、気を遣って声をかけてくださったようだ。

歩いて車椅子を押してきたので、その必要はなかったが、「じゃあ、そこまでついてってあげよか。」と、ガタガタ道からキレイな歩道に変わる場所まで誘導してくださった。

「俺のおふくろも一緒やった、俺は経験者やから、わかるよ。」「俺のおふくろも一緒やったわ。」と、少し涙目になりながら「俺のおふくろも…」と繰り返し話されていた。

安全な道まで出て、私はお礼を言って、お互いに鼻声で、サヨナラした。

私たちはいつも、誰かのお世話になっている。
だけど、わずかながら、誰かの役に立っている。

またこの次、晴れたら、ぬいぐるみを抱いた義母とバラを見に行こう。

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