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【漫画】ゴン(GON)全巻揃えたのでレビュー

 オペレーターJの好きな、というか人生に大きな影響を受けた一つに「ゴン(GON)」という漫画があります。
 ゴン+漫画で検索するとハンターハンター(これも好きな漫画ではありますが…)の主人公が引っかかってしまったりするのですが全く別物で、田中政志さんの描かれた「タイトル以外文字が一切ない動物達の漫画」です。

 恐竜(のような生きもの)のゴンを中心に大自然とそこに暮らす動物たちの野性味溢れる一話完結式(一部の話は繋がっているようにも見えますが)のお話が展開されます。
 ゴンは基本我儘で食欲と遊ぶことばかりで、周りの動物も相当な迷惑を被るのですが、たまに特に理由なく加わった群れや仲間を守ろうとしたりすることも多く、読後(読んでませんが)には不思議な感覚が湧いてきたりします。
 特筆するべきはその圧巻の描き込みで、ここまでがっつり描き込まれた漫画は他にほとんど思いつかず、自然や動物の群れも画面一杯に描かれて常に広大な世界の奥行きを感じます。
 そして、文字がないため基本仕草や表情でしか意図が伝わらないのですが、表現が見事なため、読んで(読んでませんが)いても違和感を感じることはなく、すっと心に入ってくる感じです。

 連載は1991年にモーニングで開始していますが、その妥協しない描き込み故か連載ペースは遅く、コミックスも1-2年おきに発売されるというものでした。
 私は1991年当時最初の話がモーニングに載った時から引き込まれ、コミックスも集めていたのですが、その後多忙もあって一度手放し、最近少し余裕が出てきたのでまた集めたという形です。
 現在、2002年の7巻を最後に続編は出ておらず、最新刊の末尾には「To be continued」と書かれているものの、実質これが最終巻となっています。
 コミックスは初期の1-4巻はまだ発行部数が多かったのか手に入りやすいのですが、それ以降は部数も少なければ絶版になってから長い時が経ってしまっているため、各所でも2~3倍かそれ以上で取引されることも珍しくない状態になっています。

 2012年にアニメが放映されたようですが、個人的にはいまいち原作の要素を生かし切れていないように思ったのでほとんど見ていません。

 文字がない漫画で、ゴンや動物たちの表情から感じるのが一番良いのに、わざわざ文字でレビューするというのも実に野暮なのですが、この作品の魅力を知ってもらいたいので、私のお気に入りの話を10話選んでそれらを中心に書いていきたいと思います。

10位:第1話:ゴン、食べるそして眠る

 記念すべきゴンの第1話で前述したとおりモーニングで連載されたのを見たときは衝撃を受けました。
 最初期のゴンは可愛らしさよりも恐竜的怖さもあって、手足も後のデザインに比べると生物チックであり、鱗もびっしりと描き込まれています。
 大森林の中で暮らす大熊が他の熊が捕ったサケを横取りし、いざ食べようとしたらゴンにどつかれてサケを奪われた上に腹の上で眠られる、というだけの話なのですが、この一連の流れと細かい表情や仕草が素晴らしいです。
 お気に入りは、サケのお腹だけ食べて他は放置するシーンですね。この時の熊の「もったいねぇなぁ…」的なうらやましそうに涎を垂らしている表情もたまりません。

9位:第3話:ゴン、大きな家を作る

 ビーバーが巣を作っているのをじっと眺めているゴン。ビーバーは嫌な予感がしますが、せっせと自分の家を作ります。そして、ある時突然、ゴンが大きな木をなぎ倒し始めて…
 ひたすら自分の興味から周囲全部を巻き込んで迷惑をかけるゴンの中でも最たる迷惑のかけかたをしている本作なんですが、とにかく家(巣)を作る工程と、そこに降りかかる災難をひたすらぶっ飛ばしていく過程が素敵です。
 家が完成したら完成したで大惨事…。最後に残るのは満足そうなゴンだけ。この時の動物達とゴンの表情の対比が面白いです。

8位:第11話:ゴン、キノコ狩りに行く

 3巻に収録されている話で、基本ゴンは迷惑をかけるか助けてあげるかの極端なのが多いのですが、これは動物達とみんなで遊ぶというちょっと全体からすると珍しいパターン。
 動物達と色んなキノコを食べるのですが、大体がお決まりのように毒キノコ。
 笑ったり、苦しんだり、怒ったり、色んな種類の動物たちが画面狭しとめちゃくちゃに動き回るので大変です。いつもの群れ描写も凄いのですが、本当によくここまで描けるものです。
 最期にはアライグマとゴンだけが残り、とびきり大きくておいしそうなコウテイキノコを半分こにするのですが、なぜかアライグマだけが苦しみだして…
 この時のアライグマの「えっ、なんで!?」みたいな顔で満足して眠るゴンを見ながら倒れて苦しんでいる流れが素敵です。

7位:第15話:ゴンと悪ガキたち

 4巻に収録されているお話です。
 冒頭でお母さんを亡くしてしまったチーターの子。そこにカラカル、サーバル、ヒョウの子を連れたゴンがやってきて…というお話。
 全体に小さな猫科の子の仕草がとにかく可愛い!
 小さいのにゴンに手懐けられたのか、なぜかやたらと強くて、睨みと吠えるだけで猛獣達も怖気好き、やりたい放題です。
 この子たちのやんちゃっぷりと、魚をちゃんと4頭分する妙な芸当を披露するゴンがお気に入りです。
 そして、絶望から最後は希望の表情に変わって仲間に加わるチーターの子がとにかく可愛い。背中の毛がふさふさしているのがチャームポイント。

6位:第10話:ゴン、睨む

 舞台はオーストラリア。珍しい生き物たちの中でゴンは暮らしていますが、この話のメインはどちらかというと子供を連れたディンゴのお母さん。
 子供たちのために獲物を捕ろうとするのですが、ことごとく、理不尽にゴンに邪魔されます。
 一体いつ手なずけたのかと思うのですが、ゴンはオーストラリアの生き物たちを率いてディンゴをボコボコにします。
 最期は子供達の前でゴンと一騎打ち。しかし、ゴンには気迫だけで圧倒されて太刀打ちできず倒れてしまいます。
 ゴンはなぜか子供には優しいので、魚をくれるのですが、魚を食べようとする子供たちにお母さんは一括。子供たちはお腹をすかせているものの気丈な表情になってお母さんについていきます。
 基本、ゴンにいじめられた動物は悲惨な末路しかないのですが、この話だけは不思議と最後はこの親子に未来を感じる終わり方になっており印象深いです。

5位:第4話:ゴン、大空を舞う

 なぜか鷹の子に混じってお母さんに世話されているゴン。
 鷹の子供たちを狙ってヤマネコが襲ってきますが、撃退します。
 ゴンは無敵に近い存在ですが、空だけは飛べません。
 ですが、なぜか子供と同じようにゴンに飛び方を指導するお母さん。
 この時の「そんな飛び方じゃダメだ、羽を広げて勢いよくいけ!」みたいな指導後に「わかった」みたいな顔をしたゴンが勢いよく地面を蹴って飛んでいく(もちろん結局落ちるのですが)シーンがお気に入りです。そして、そんなゴンを見てなぜか「それでいいんだ」みたいに満足そうな背中を向けているお母さん。ゴンを一体なんだと思っていたのか気になりますね…
 最期はとうとう巣立ちの日がやってきます。
 鷹の兄弟たちは颯爽と飛び立ちますが、ゴンは強力なジャンプをするものの墜ちていき…
 この時の兄弟の行動とそれを眺めるお母さんの目に感動を覚えます。
 そして、落ちても必死に手をばたつかせているゴンが可愛いです。

4位:第13話:ゴン、亀になる

 ある時、自分が入れそうな亀の死骸を見つけたゴン。興味本位で甲羅の中に入ってみたはいいが取れなくなってしまい…
 この話はかなりダイナミックな話で、最初の亀になったゴンの四苦八苦ぶりから、ウミガメの赤ちゃんが海へ入っていく中、様々な動物たちの襲撃を受け数を減らしながらも懸命に進んでいく姿には心を打たれます。
 いつの間にか子亀サイドに入っているゴン(直前には卵を食べていたくせに!)は子亀を守るべく海に空に獰猛な生きもの相手に奮闘するのですが、とうとう子亀は1匹だけになってしまいます。そして、ゴンについていた甲羅も激闘の中で限界を迎えて崩れます。
 この時に同じ亀だと思っていたのに別の生きものだとわかってがっかりする子亀とそれでも前を向こうと泳いでいくラストシーンはとても美しいです。

3位:第12話:ゴン、狼兄弟と共に戦う

 ゴンが子供を助ける話はいくつもあるのですが、個人的に一番好きなのはこの話です。
 鷹の話と同様になぜか狼のお母さんに普通に世話されているゴン。
 ですが、この森には獰猛な虎が住んでおり、お母さんは虎に襲撃された際に我が子を守ろうとして殺されてしまいます。
 それからはゴンが子狼達の親代わりになって育てるのですが、虎は強くゴンを弾き飛ばしてしまうほどの怪力で、飛ばされている間に兄弟の一匹も殺されてしまいます。
 そんな虎に逆襲するべくゴンと小さな子狼たちは協力して立ち向かっていきます。
 虎を倒して生き延びた後、凛々しく成長した狼兄弟となぜかずっと変わらないゴンが並んで現れ、その咆哮はあの虎以上に森を震わせます。
 最期、兄弟とゴンは言葉はなくとも何かを悟ったという風に見合わせ、お互いの道を進みます。
 このラストの足跡が並ぶシーンは本当に美しいです。

2位:第8話:ゴン、ペンギンと暮らす

 集めなおす前は一番印象的だった話で、2巻に収録されています。
 なぜか南極のアデリーペンギンの群に紛れ込んで普通に暮らしているゴン。
 ペンギンたちの行列に混じって一緒に海に餌のエビを捕りに行き、ペンギンたちが腹を膨らませている中、巨大なほっぺにエビを溜めて帰還し、子ペンギンたちに分け与えたりして、すっかり群れの一員として馴染んでいます。大好きなのは子ペンギンたちと一列になって更新し、お散歩をするシーンです。
 でも、どんなに馴染んでもゴンはいつものゴンなので、海に向かってジャンプしたり、腹ばいで滑ったりするたびに氷が派手に崩壊して巻き込まれたペンギンが吹っ飛ばされてかわいそうなのですが、そんなペンギンもまた可愛いし、あんまり気にしてなさそうなのでよし!という気になります。
 ペンギン達が昼寝しているアザラシの上にジャンプして乗るとアザラシは気持ちよさそうなのにゴンが乗ると…というシーンも大好きです。
 後半はペンギンを襲って食べてしまうオオフルマカモメとの対決になります。さしもの無敵のゴンも空は飛べないので一度は取り逃してしまうのですが、子ペンギン達を囮にした頭脳プレーを使って…
 ここから先の流れもなかなか酷いながらとても可愛いのでぜひ読んでみてください。

1位:第20話:ゴンと賢明なる巨象

 大分経ってから購入した第6巻に収録されている話なのですが、改めて集めなおして本当によかったと思える話でした。この話が読める(読んでませんが)なら数倍のお金を払っても惜しくはありません。
 お話は、老いた一頭の象が群れを離れて、いわゆる「象の墓場」へ向かう道中に偶然傍にいて巻き込んでしまったゴンが同行する、というものです。
 老像はまともに歩けもしないぐらいに弱っているのですが、長年の知恵から洪水を避けたり、虫やハイエナの群れを退けたり、木の実を取ってくれたりとなにかとゴンを助けてくれ、ゴンはそのお礼と思ってるのか象を引っ張ったり持ち上げたりして象の墓場に向かう手助けをします。
 ゴンは年齢不詳なのですが、すっかり象のおじいちゃんにお世話されている子供みたいになっていて可愛いです。
 そして、象はゴンに助けられながら目指していた場所にたどり着きます。
 そこで見る光景と浮かんでくるここで眠る象達の幻影。
 一方のゴンは無邪気に素敵なベッドを見つけたとばかりに寝転んで眠ります。
 その横で満足そうに象は眠ります。
 この対比がとても感動的で、一番素敵な話だと思いました。

 ここでは紹介しきれませんでしたが、洞窟を探検するダイナミックな5巻、オランウータンの家族と暮らし圧巻の大自然を駆け巡る7巻の話も素晴らしい出来の作品です。

 ぜひ興味を持たれたら、古本にはなってしまうのですが、読んでみてください。
 またどこかで話題になって再販とかあると嬉しいんですけどね。

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