N 響 主席指揮者ルイージさんによる東京藝大学生への熱血指導(その2): 元教授、定年退職 115日目
先日、NHK 交響楽団 主席指揮者ファビオ・ルイージさんによる東京藝術大学の学生への指導の様子を紹介しました(7/17, note)。これは NHK 教育テレビ(Eテレ)の「クラシック音楽館」内の一つのコーナーでした。17日にはルイージさんの希望による前日の予備練習での指導の様子が放映されました。そして21日には、いよいよ本番のオーケストラを相手に学生たちがタクトを振る様子が放送されました(下写真)。時に厳しく、時にユーモアを交えながら惜しみなく指導するルイージさんの姿に、私は改めて感銘を受けました。
前回の放送を見て、私は学生たちが予備練習で受けた指摘をどれだけ理解し、咀嚼し、本番で改善できるのかという点に注目しました。特に、オーケストラを前に彼らの成長が発揮できるか、そしてルイージさんがその場でどのような指摘をし、学生たちはそれにどう応えるのか、を楽しみにして視聴しました。
今回も、一人ひとりに行われたルイージさんの指導を以下に示します。
・修士2年の学生には、演奏者に寄り添う重要性を指導しました。「単にスタートの指示をするだけでなく、フレーズの間中一緒に音楽を作る」と言う言葉が印象的でした。実際に演奏者に想いを伝えると音色に変化が現れ、オーケストラとのコミュニケーションが改善されました。
・学部2年の学生(オーケストラへのタクト指揮は2回目)は、楽譜を見すぎる癖は減ったものの、まだ多いため「スコアより皆を見ろ」と指導。そして基礎的なことを教えるため、手取り足取り、最後には二人羽織のようにして指揮の動きを体感させていました(タイトル写真:注1)。学生は感激していました。
・学部3年の学生は、一見適切にタクトを振っているように見えましたが、ルイージさんは「大事なパートをなぜ見ないのか」と楽曲の流れと異なる動きを指摘しました。主旋律を演奏している楽器を目で追うように指導し(下写真)、オーケストラ全体とのコミュニケーションの重要性を強調していました。
・学部4年の学生には「拍を取ろうとしすぎで、指揮が切れぎれになっている」と指摘し、「ソーセージみたいだ」とユーモラスな比喩を使って説明をしました。拍を取ることに固執せず、楽器と一緒に長いフレーズを示すよう指導しました。
これらの指導シーンはテレビでは15分程度にまとめられていましたが、実際には6時間に及ぶレッスンだったそうです。そしてルイージさんが一人一人とハグをして指導は終了しました。最後のインタビューでは、ルイージさんは学生たちの真摯な取り組みに感謝し、「自らの経験を若者たちに伝えたい」と語り、次回の指導の可能性も示唆してくれました(下写真)。
また、もうひとつ私が感銘を受けたのは、ルイージさんがすべての学生に対して、必ず「良かった。でももっと上手くできるよね」と声をかけていたことです。まずきちんと相手の努力を認め、尊重した上で、さらなる向上を促す姿勢は、まさに教育者の鑑だと思いました。
このような相手への配慮を込めた言葉遣いは、社会生活を送る上でとても大切だと感じます。「細やかな心遣いがある日本語と違って、英語では言いたいことをズバズバ言うのだ」と言う人もいますが、英語でも配慮のできる人は断る場合でも、単に「No thank you」ではなく「Thank you, but no thank you」と、言葉をかけてくれたことに感謝してから断ります。尊敬できる大先生ほど、そのような細やかな配慮を自然にされていました。私たちも見習いたいと思います。
今回の番組は、本当に素晴らしい取り組みだと思いました。最近のテレビ番組の衰退が懸念される中で、ぜひこのような番組を製作し続けて欲しいと思います。それでは、また。
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注1:NHK 教育テレビ(Eテレ)「クラシック音楽館」より
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