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体温でフィットする形状記憶ポリマー (後編) @機能性プラスチック展(元教授、技術展に行く:その7)定年退職45日目

今日は、前回紹介した機能性プラスチック展の三井化学ブースで見つけた「体温でフィットする形状記憶ポリマー」(タイトル写真は用途例:注1)の後編をお届けします。前回は主に概要とポリマーの印象でしたが、今回は最初にサンプルの性質を簡単な実験で調べた後、パンフレットに示されていたデータを少し解説し、最後にこのポリマーの広い用途や他社とのコラボレーションについてお話しします。


まず、提供していただいた3種のサンプル(下記写真:発泡型2種、非発泡型1種。ガラス転移温度:28 ℃)を様々な条件で調べてみました。室温(24.2 ℃)では、いずれのサンプルも手で触らない限り少しだけ柔らかいものの形状を保っています。手で持つとその部分から柔らかくなります。一方、冷蔵庫(約 5 ℃)にいれると数十秒後にはガチガチに硬くなり、冷凍庫(約 -20 ℃)では一瞬で硬くなりました。さらに、以下でいくつかの実験をしてその特性をみました。

ご提供いただいたサンプル3種

・室温では(硬めの)布のように簡単にねじることができ(下写真)、横方向に手で引っ張ると倍程度に伸び、いずれも体温で元の形に戻りました。

室温でねじった後、元の形に戻る

・水を完全にはじき、ポリマーも形を変えませんが、お湯(約 50 ℃)をかけると驚くほど柔らかくなり自由に伸ばせました(下写真:伸ばしたものを冷却して固定しています)。

お湯をかけて伸ばした状態(冷却して固定)

・変形したものを元の状態に戻す時は、ドライヤーの熱風がとても効果的でした。

・短冊状に切りますと容易に結び目を作ることでき、これも体温で元に戻りました(下写真)。

短冊状サンプルで結び目を作る、後に戻す

・糸状にはさみで切り、伸ばすと3倍程度伸びた後に切れました。また、簡単に丸めやすいです。


次に、パンフレット(注1)に掲載されていた下記の科学データを、良い機会ですので説明します(少しややこしいですが、ポリマーの性質をよく表していますので、しばしお付き合い下さい)。定性的に示しますと、図の横軸はポリマーがどのくらい伸びるかその程度を示し、縦軸はポリマーの硬さを示しています。低温(例えば -10 ℃)では非常に硬く、数%しか伸びませんが、常温〜それ以上の温度(23 ℃、40 ℃)では柔らかく、それほど力をかけなくても数百%伸びることが示されています。上記で行った私の簡単な実験結果とも一致する興味深いデータでした。

温度依存性グラフ(注1)


そして同社は、このポリマーを「ヒトとモノの接点をもっとやさしくできたら」、そして「ヒトの体温を感知して限りなく私に近づく素材」というコンセプト(注1)で、多彩な用途に展開しています。

具体的な用途としては、帽子、知育玩具、ランドセルの肩紐、靴のインソール、靴自体、マタニティブラ、手袋など、多岐にわたるサンプルが展示されていました(一部はタイトル写真に)。さらに、ベルト、時計バンド、ヘッドホン、ゴーグル、枕、ゴルフクラブのグリップなども候補にあり、もう少し大きなものでは、サポートチェア、エアクッション、ソファーが挙げられていました(注1)。いずれも、体温で柔らかくなり体に合わせて馴染むことを考えており、今後の展開が非常に楽しみです。

また、他社とのコラボレーションとして、ジャストフィットする帽子(トーキョウハット、ハットとキャップ。下写真)やムレにくい布(西川ふとん、flexknit x HUMOFIT)などが、さらに加工技術の相談(オーゼットケー)も、すぐ横のブースで早速行われていました。

ジャストフィットする帽子


今回の素晴らしい材料は、ガラス転移温度が体温付近の材料の発見が原点になりました。高分子には他に様々なガラス転移温度の材料があるので、それらを用いた今後の展開はさらに楽しみになってきます。

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注1:三井化学のブース及び配付パンフレット資料より


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