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パリのマンガ喫茶と「ゴルゴ13」創作秘話: 元教授、定年退職177日目

以前「ドキュメント72時間」の人気回の紹介をしましたが、今回は2023年7月に放映された「フランス・パリ 街角のマンガ喫茶で」という回を視聴しました(下写真)。この喫茶店には、フランス語に翻訳された日本の漫画が2万冊も置かれ、ソファーでくつろぎながら手頃な価格で自由に漫画を読めるシステムです。

ドキュメント72時間 SP「フランス・パリ 街角のマンガ喫茶で」(注1)

アニメをきっかけに漫画を読み始める人も多く、古典から最新作まで幅広く親しまれているようです。これは日本の漫画が世界的に人気を博していることを改めて示すものであり、数年前にドイツやアメリカの書店で見かけた日本漫画コーナーを思い出しました。 <あとがき> もどうぞ


この番組を観て、さいとう・たかをさんのインタビュー番組が脳裏に浮かびました。さいとうさんは「ゴルゴ13」や「鬼平犯科帳」などで知られていますが、2021年に惜しくも他界されました。私が思い出したのは、2015年にNHK Eテレで放映された浦沢直樹さんの「漫勉」という番組でした(下写真)。特に、1968年から47年間(当時)にわたり連載された「ゴルゴ13」の制作過程は、大変興味深いものでした(タイトル写真:注2)。

浦沢直樹さんの「漫勉」(注2)

ゴルゴ13にまつわる私の思い出としては、小学生の頃、床屋に行くとシリーズが何十冊と置かれており、毎回読むのが楽しみでした。床屋が混んでいると長く読めるので嬉しく、前の人が早く終わるとがっかりしたものです。大学時代には喫茶店にも置いてあり、何時間も長居して(すみません)、懐かしい思いで再読しました。


番組では、さいとうさんの執筆映像を浦沢直樹さんと共に見ながら、対談形式で進行しました。さいとうさんが主人公のゴルゴ13を描く映像は大変貴重でした。まず、下書きをせずに人物のおおまかな輪郭(アタリ)だけを描き、すぐに太いサインペン(マジックインキ)で眉毛からペン入れします。ミスをした箇所はホワイトで修正するのですが、吸っていたタバコを使って乾かしていました。日本中の人々が知るゴルゴ13の顔が、あっという間にペン先から生み出されていく様子は衝撃的でした。(下写真もどうぞ)

さいとう・たかをさんと浦沢直樹さんの対談(注2)
主人公のゴルゴ13を描いていく(注2)
ホワイトでの修正部を吸っていたタバコを使って乾かす、衝撃映像(注2)


さらに驚いたのは、さいとうさんが手塚治虫さんの作品に触発され「漫画で映画を作る」という発想で、「劇画」というジャンルを創り出したことです。映画の制作に似たスタッフ制を取り入れ、総力を挙げて作品を生み出す体制を確立しました。1960年にプロダクションを設立し、多くの人材を結集して質の高い作品制作を目指したそうです。

番組では、スタッフ8名と10日間で1話を制作する過程が詳しく紹介されました。まず、原作者が作成した脚本を読み込み、4日から1週間かけネーム(設計図)を作ります。本番の紙にコマを切り、ネームを直接描き入れていき、スタッフと一緒に作画を進めます。さいとうさんは主人公のペン入れをし、吹き出しや擬音などを書き込みます。最後に、全員で議論をしながら最終チェックを行い、作業を完了させます。スタッフそれぞれの得意分野を活かし、こうしてゴルゴ13は完成するのです。(下写真もどうぞ)

ネームを作っていくさいとうさん(注2)
最後に細かい線を入れ、擬音を書き込む(注2)


「ゴルゴ13」は時事ネタを多く扱う作品ですので、そこには時代の変遷と共に善悪の解釈が変化していくという複雑な問題があります。そのため、作者のさいとうさんは、その難しさに直面しながらも、ゴルゴ13を時代に左右されず、自らの原則に従って任務を遂行する存在として描いたそうです。そこには、普遍的な「人間の根源」に迫りたいという強い想いがあったからです。


「漫勉」のビデオを探していたところ、手塚治虫さんの回も見つけました。手塚さんもまた20世紀を代表する偉大な漫画家で、幼い頃から私の心に残る大好きな漫画家でした。その中でも「鉄腕アトム」は、私にとってバイブルのような存在です。次回は、手塚治虫さんについて書かせていただきます。


<あとがき> 私のドイツ出張に合わせて 2007年にフランス一人旅を敢行した奥様は、パリの書店で「デスノート」のフランス語版が平積みになっているのを目にして驚いたそうです。フランスにおける「日本漫画熱」は、かなり以前から始まっていたのですね。

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注1:NHK番組「ドキュメント72時間SP:フランス・パリ 街角のマンガ喫茶で」より
注2:NHK Eテレ番組「浦沢直樹の漫勉『さいとう・たかを』」より


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