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鏡に映るとなぜ左右が逆になるのか

 (以下の算数・数学の記事は、小学3年生くらいでもわかるように書きたいです。しかし、難しい漢字を使ってしまうかな。では、小学6年生くらいなら読めるように書きたいと思います。こういうことを考えるのがお好きな大人のかたもどうぞお読みくださいね。)

 皆さん、鏡に映る自分を見ると、左右が逆になっていますよね。こちらが左手を挙げると、鏡の中の自分は右手を挙げます。なぜ「左右が逆になる」のですかね?上下ではなくて?前後ではなくて?

 これについては、いままでも私はいろいろな人に説明を試みてきましたが、なかなか納得してもらえないものです。しかし、よろしければ以下をお読みください。

 最初に(受け入れがたいかもしれない)結論を先に書いてしまいますね。

 人間は左右対称だからです!

 その理由を、だんだん書いていきますね。(この「受け入れがたい結論を先に書き、あとから理由を述べる」というのは、数学の論文の順番でもあります。「定理」(主張)を先に書き、あとから「証明」(理由)を書きます。)

 われわれは、鏡に映った自分を「人間」だと認識しています。彼(彼女)を「人間」だと認識できるのは、人間が(左右)対称だからです。人間は上下対称ではありません。頭が下にあり、足が上に伸びている人間はいません。また、人間は前後対称でもありません。顔やおへそが背面にあり、おしりが前面にある人はいません。しかし、人間は左右対称です。(正確に言うと「左右交換可能」。)だから鏡に映った自分は左右が逆に見えるのです。上下が逆でもなく、前後が逆でもなく。これは、鏡の位置にはよりません。自分の前面に鏡がある(洗面所のように)ときだけでなく、自分の側面に鏡があっても、自分の床に鏡があっても、やはり左右が逆になります。映っている自分を「人間である」と認識する以上は。

 これを、1次元低い、2次元の例で出しますが、「左右対称でなく上下対称である」もので実験してみましょう。そういうものはめったにありませんが、つぎのようなものがあります。アルファベットの「E」です。これは、左右対称でなく、上下対称ですよね。ほかに「巨」とか「臣」とかでもいいのですが、「E」にしましょう。これを鏡に映してください。以下のように映されましたか?

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 ここで、わかりやすいように、Eの上に、目印である「・」を書かせていただきました。映ったものを見てどうですか?なにい「E」がさかさまになって、やはり目印の「・」は上にある?そうではなく、これを「E」であると認識していただくのです。この紙をさかさまにしていただくといいかもしれませんね。どうですか。「E」に見えるでしょう。そして、目印の点は、上ではなく下にあるでしょう。このように、「左右対称でなく上下対称であるもの」は、上下が逆になるのですよ!これでわかりにくかったら、鏡はどこにあってもいいですので、以下の図のように鏡がEの下にある場合を考えていただくといいかもしれませんね。映ったものも「E」で、そして、映る前にEの上にあった点は、Eの下に行っていますよね?

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 つぎに、左右対称であって上下対称でない文字「A」を考えます。同じように、Aの上に目印の「・」を書きます。そして、念のために、Aの左に目印の「×」を書きます。そしてこれを鏡に映しますね。以下のようになります。

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 いかがでしょうか。映ったあとの文字を「A」だと認識すると、これはAの上に「・」がありますよね。上下は逆になっていません。そして、Aの左にあった「×」は、Aの右に行っていますよね?左右は逆になりました!

 それから、左右対称でもなく上下対称でもない文字「F」を鏡で映してみましょう。以下の図のようになります。映ったものを「F」だと認識できるでしょうか?できないでしょう?どうひっくりかえしても映ったものはFだと認識できません。このように、左右対称でもなく上下対称でもないものはこうなるのです。人間を鏡で映して人間だと認識できるのは、人間が(左右)対称だからです。

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 これでご納得いただけたかははなはだ自信がないのですが、少しずつ納得していただけるように、引き続きお付き合いくださいね。だいたい、世の中にあるものは、左右対称なのです。たとえばいま私がかけているメガネというもの。これは左右対称です。前後対称でもなく上下対称でもありません。ですから鏡でメガネを映すとやはり左右が逆になるのです。もっとも、以下のようなことがあります。つぎの動画を見てください(見なくてもいいですけど)。これはある教会のある日の礼拝の説教の動画です。最初のほうで、会衆のなかの「別府さん」という人がメガネを上下さかさまにかけておられて、それに牧師さん(奥田知志さんですけど)がツッコミを入れる場面があります。だからメガネを上下反対にかける人はいるわけです。


 また、ここにコップがあります。コップも、左右対称(というのかな)ですけど、上下対称ではありません。しかし、以下のようなことがあります。バカむこどんが出て来る落語があります。お嫁さんから「つぼを買ってきてちょうだい。底の抜けたものを買っちゃダメだよ」と言われておつかいに行きます。お店に行くと、つぼがさかさまにして置いてあります。「このつぼ、口がないな」とバカむこどんはいいます。そしてひっくり返してみると「なあんだ、ぜんぶ底が抜けてらあ!」と言ってバカむこどんはつぼを買わずに帰るのです。たぶん彼は発達障害かなにかですが(昔はこうして笑い話で済んだのだなあ。現代は私みたく職を失うところまで来てしまう。「発達障害が増えている」のではない。世の中が「変人」を受け入れなくなってきているのだ!)、とにかく「つぼ」を「口がなくて底が抜けている」と認識する人もいるのです。多くの人はそれを「つぼがさかさまに置いてある」と認識するでしょうけど。

 『舟を編む』という小説があります。辞書をつくる話です。有名な小説なのでご存知のかたも多いでしょうね。知らなくても以下の話に支障はないですよ。私がまだ読む前に、父が読み、私に「『右』はどうやって説明するか?」と聞いて来ました。私は「東を向いたときの南の方角。ただし逆立ちをしてはいけない」と答えました。のちにその小説を読んでみると、まさに主人公は私と同じ答え方をしていました。ただしその主人公は「逆立ちをしてはいけない」とは言っていませんでした。もし逆立ちをすると、東を向いたときの南の方角は、「右」ではなく「左」になってしまいますから、私のほうがより厳密でした。

 このように、地球には「向き」があり、地球を鏡に映すとおかしなことになります。おそらく東京の東に大阪があるでしょう(北を北極で定義し、南を南極で定義するなら)。いま使った「向き」という言葉は、厳密な数学の用語で、大学以降(どのタイミングだったかな?)で習う概念です。急に難しいことを言ってすみませんでした。でも、だいたい意味は通じたでしょ?ようするに今回の私の話は「向き」(orientation)の話をしているのです。

 だいたい世の中のものは左右対称であり、鏡に映しても違和感のないものばかりです。床屋さんで鏡の前で散髪してもらいながら、鏡のなかの世界を「世界」だと認識して、ほとんど違和感はないですよね。床屋さんの鏡を見ていて気になるのは「文字」と「時計」くらいですよね。「文字」(さきほど例として見ましたね)と「時計」は(左右)対称ではないからです。あとのほとんどのものは左右対称であるため、左右が逆に見えるわけです。

 以下は、中学1年で習う「対称移動」という言葉を使いますので、中学1年生以上向けの記述です。「合同」も出て来ますが、「合同」は小学校で習うはず。しかし、なるべくやさしく書きますね。でも中学の数学の知識はあったほうが読みやすいと思います。難しいことは書きません。

 中学1年の教科書に「2つの図形について、一方をずらしたり裏返したりして他方にぴったりと重ねることができるとき、それらの図形は合同であるという」と書いてあり、「図形を、その形と大きさを変えずにほかの位置に動かすことを移動という」と書いてあり、「図形を、1つの直線を折り目として折り返すことを対称移動という。このとき、折り目とした直線を対称の軸という」と書かれています(『体系数学1 幾何編』(数研出版)より引用)。つまり、最初のほうの、鏡で「E」や「A」や「F」を動かしたのは、鏡(直線でした)を対称の軸とする対称移動と見ることもできます。「F」は、鏡で映したものはFとは認識できませんでした。われわれの3次元空間でその例を挙げると(「右手系」「左手系」という言いかたがありますが)たとえば「右手」です。右手を定義すると「手であって、手のひらをこちら側に見えるようにしたとき、親指、人差し指、中指、薬指、小指が、この順で、時計と反対まわりに並んでいるもの」と言えます。これの逆が左手です。右手を鏡で映すと、それは「右手」とは認識できません。(左手には見えるけど。)「手袋」をご想像ください。手袋を左右逆にはめることもできますけど、その場合、手のひらと手の甲の部分が逆になりますでしょ?

 さて、上述の通り、合同な図形とは、裏返してぴったり重なるものも合同と言うのでした。対称移動をしますと、必ず裏返ります。それでは、右手を「裏返して」左手にすることはできるでしょうか?…できないですよね。なぜでしょうか。

 じつは、対称移動は、この中学の教科書の説明だと、「3次元的な」動きをしています。「折り返す」と言っています。「折り返す」という操作は、平面のなかだけではできませんよね?必ず、3次元空間に1回、取り出して、もう一度、平面内に入れ直す操作をしています。「裏返す」というのもそうですよね。必ず、3次元空間に1回、取り出して、もう一度、平面内に入れ直す操作をしていますよね。ところが、「右手」というような、「3次元空間から出せない」ものは、どうしても「左手」にすることはできません。しかし、いま見て来たように、「4次元の空間に取り出していいものなら、右手は左手にすることができる」のですよ!わかりました?(笑)。想像を絶する?

 というわけで、鏡に映るとなぜ左右が逆に見えるのか、というお話でした。人間が左右対称だからですよ!(これ、学生時代の30年くらい前から考えてあるのに、大概の人には納得してもらえなかった!今回、はじめて自分でも納得のいくように説明をしました!この記事がよい読者に恵まれますように!)

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