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11の倍数と消費税

 (この記事は、中学1年生の数学の知識があれば理解できるように書きます。文字を習った小学6年生でも読めるように書きたかったですが、微妙に負の数が出て来てしまうので、中学1年生の知識は必要かと思います。というべきか、「そういえば前にそんなことを習ったなあ」と思う大人のかたのための記事と言いますか。)

 3の倍数を見ぬく簡単な方法があることはご存知でしょうか。十進法で書かれた(ようするに普通の)整数の、すべての位の数を足したとき、その数が3の倍数であれば、その数は3の倍数です。これは逆も成り立ちまして、3の倍数というものは、すべての位の数を足したものが3の倍数になります。ごめんなさい、抽象的なことばかり言いました。例を挙げますね。

 123は3の倍数です。

 これは、百の位が1、十の位が2、一の位が3で、1+2+3=6であり、6は3の倍数だからです。こんなに簡単に3の倍数を見分けることができてしまうのです!同様の例を挙げますね。

 5601は3の倍数です。

 これは、千の位が5、百の位が6、十の位が0、一の位が1なので、5+6+0+1=12であり、12は3の倍数ですから、この5601というのも3の倍数なのです。5601÷3=1867。なぜこうなるのかをご説明いたしますね。その前に、9の倍数の見分けかたもご説明いたしましょう。同様なのです。すべての桁の数を足して9の倍数になれば9の倍数ですし、ならなければ9の倍数ではないのです。例を挙げますね。

 378は9の倍数です。

 これは、百の位が3、十の位が7、一の位が8で、3+7+8=18であり、18は9の倍数だからです。378÷9=42。もうひとつ例を挙げましょう。

 5601は3の倍数ですが9の倍数ではありません。

 これは、千の位が5、百の位が6、十の位が0、一の位が1であり、5+6+0+1=12であって、12は3の倍数ですけど9の倍数ではないからです。どうしてこういうことが言えるのか、わけを説明いたしますね。

 議論を簡単にするため、3桁の整数にします。百の位の数をa、十の位の数をb、一の位の数をcとしますね。十進法では「abc」みたいに見える数です。aとbとcをかけた数という意味ではありません。これは、100がa個あり、10がb個あり、1がc個ありますので、100×a+10×b+1×cという意味になります。たとえばさっきの「123」という数では、100が1個、10が2個、1が3個ありますので、123=100×1+10×2+1×3となりますでしょ。そのことを言っています。

 そして、すべての位の数を足した数は、a+b+cですね。さっきの数で言えば1+2+3のことです。

 ここで、もともとの数である100×a+10×b+1×cをつぎのように変形させます。100=99+1、10=9+1、というのはよろしいですよね。それから、1をかけても数は変わりませんから、1×c=cですよね。そこで、以下のように変形します。

 100×a+10×b+1×c=(99+1)×a+(9+1)×b+c

です。ここで分配法則というものを使います。名前は難しげですが、皆さんよくご存知の計算で、(99+1)×a=99×a+1×aとする計算です。これでさらにこの数を変形しますね。

(99+1)×a+(9+1)×b+c=99×a+1×a+9×b+1×b+c

です。さらに足し算はどの順番にやっても同じ数になることを使ってもっと変形しますと以下のようになります。

99×a+1×a+9×b+1×b+c=99×a+9×b+a+b+c・・・(1)

です。

ここで、a+b+c(3桁の数の3つの数字をすべて足した数)が3の倍数だったとしましょう。すると、99×aは3の倍数ではないですか。aは整数で、99は3の倍数ですから。そして、9×bも3の倍数ではないですか。整数かける9だからです(9は3の倍数です)。そして、a+b+cは3の倍数ですから、(1)の式は3の倍数ですよね。これで説明になっていますよね。よろしかったですか?

 それから、a+b+cが9の倍数であったときも同様に考えられます。99×aは9の倍数ですよね。そして9×bも9の倍数ですよね。そして、a+b+cが9の倍数であるなら、(1)の数は9の倍数ですよね。これでご説明になっていますでしょうか。ご納得いただけますでしょうか?

 これが、3桁の数に限らず、何桁であっても同様の議論が言えて、十進法で表された整数は、すべての桁の数を足したものが3の倍数であったら、3の倍数であり、9の倍数であったら、9の倍数です。その逆も言えます。これに最初に気がついた人は偉いですよね!もっとも、なんでも最初に気がつく人は偉いですけどね。

 これと同じ感じで、11の倍数を見抜く方法もご紹介しますね。たとえば、6182という数を考えます。今度は、偶数番目の桁(千の位、十の位など)の足し算と、奇数番目の桁(百の位、一の位など)の足し算の、2つの数の差を考えるのです。その数が11の倍数だったら11の倍数だし、その数が11の倍数でなかったら11の倍数ではないです。この数を例にとって考えますと、千の位は6、十の位は8ですから、偶数番目の桁の数の足し算は6+8=14になりますね。一方で、百の位は1、一の位は2ですから、奇数番目の桁の数の足し算は1+2=3になりますね。つまり、その2つの数は、14と3になります。その差は?14-3=11になりますね。11は11の倍数ですね。つまり6182は11の倍数なのです!びっくりですね!6182÷11=562。

 別の例を挙げましょう。14740。これは、偶数番目の桁の数の足し算は4+4=8、奇数番目の桁の足し算は1+7+0=8です。つまり、この2つの数の差は8-8=0です。0は11の倍数ですからね!というわけで、14740も11の倍数です。14740÷11=1340。

 もうひとつ例を挙げましょう。2953。これは、偶数番目の桁の数の足し算は2+5=7、奇数番目の桁の足し算が9+3=12です。その2つの数の差は12-7=5です。5は11の倍数ではありませんね。ですから2953は11の倍数ではないのです。

 これも、どうしてそうなるのかは、先ほどの3の倍数、9の倍数のときと同じように説明することができます。これは、4桁の整数で考えましょうか。千の位をa、百の位をb、十の位をc、一の位をdとしましょう。するとこの数は、1000×a+100×b+10×c+1×dとなります。ここで、1000=1001-1、100=99+1、10=11-1であることを用いてこの数を変形しますね。1000×a+100×b+10×c+1×d=(1001-1)×a+(99+1)×b+(11-1)×c+dです。ここでまた分配法則を用いますね。さっきと同じようにします。(1001-1)×a+(99+1)×b+(11-1)×c+d=1001×a-1×a+99×b+1×b+11×c-1×c+dです。さらに足したり引いたりする順番は変えてよいので(このへんで負の数が出て来る可能性があるので、微妙に小学生には説明しづらいです)、つぎのように変形させます。1001×a-1×a+99×b+1×b+11×c-1×c+d=1001×a+99×b+11×c-a+b-c+d=1001×a+99×b+11×c+(b+d)-(a+c)です。

 ここで、奇数番目の数字の足し算はb+dであり、偶数番目の数字の足し算はa+cですので、その差というのは「(b+d)-(a+c)」になるわけです。大きいほうから小さいほうを引いたとは限りませんので、負の数になっていることもあります。これが11の倍数であるとしましょう。すると、1001×aは11の倍数ですよね。1001は11の倍数ですから。1001=91×11。そして、99×bは11の倍数ですよね。99は11の倍数だからです。そして、11×cも11の倍数ですよね。11の倍数と11の倍数を足しても11の倍数ですよね。つまり、この数は11の倍数なのです!

 これは、4桁の整数だけでなく、どんな整数でも言えることです。これが、「その整数が11の倍数であるか否かを一発で見抜く方法」であるわけです。

 なんでこんなことが役に立つのかという話をしますね。消費税込みの価格かどうかを、かなりの正確さで見抜くことができるのです。私はいま2年ほど仕事を休んでおり、まもなく仕事を失いますが、仕事をしていたころは、この性質を非常に役立てていました。そのことを今から書きたいと思います。

 消費税が10%になったのは3年前の秋ですよね。なぜ覚えているかと言ったら、そのころ私はまだ仕事をしており、全社員の通勤手当の計算のし直しをした覚えがあるからです。いま検索したら2019年10月のことであり、私の記憶に間違いはありませんでした。だいたい食べ物や飲み物は8%のままみたいですけど、それ以外は10%になったみたいですね。

 100円の品物を買ったとしましょう。これの消費税が10%だったとして、消費税はいくらでしょうか。100円の10%ですから、0.1倍でありまして、10円です。ですから、税込みの価格は100+10=110円になります。つまり、税抜きの価格に1.1をかけたものが税込みの価格です。税抜きの価格をa円としますと、消費税はa×0.1円で、税込みでa+a×0.1円です。これにさっきの分配法則の逆をやりますと以下のようになります。a+a×0.1=a×1+a×0.1=a×(1+0.1)=a×1.1。つまり、税抜き価格に1.1をかけると税込みの価格になります。

 それで、税抜きの価格の一の位が0であったとしましょう。だいたいキリのいい数になっていますので、一の位が0であることは多いものです。つまり、10の倍数だということです。(これはさっき言っていませんでしたね。10の倍数であるかどうかを見抜くには、一の位が0であるか否かを見ればいいのです。一の位が0であれば、10の倍数です。)それで、たとえば税抜きの価格が2980円だったとしましょう(一の位が0です)。これの税込みの価格は、1.1をかけて、2980×1.1であり、2980×1.1=298×10×1.1です。ここで10×1.1を先に計算しますと(かけ算ってやる順番によらないのですね。すごい性質ですよね)、10×1.1=11ですから、2980×1.1=298×11です。つまり11の倍数です。なにが言いたいか、お分かりになりましたか?つまり、税込みの価格って、11の倍数であることが非常に多いのです!これで、その価格が税込み価格なのかどうかが、かなり正確にわかることになります!これは仕事で役に立ちました!

 そのころ、私は学校の事務員でした。学校の事務員って、なにをしているのか、多くの人はご存知ないでしょう。私もなるまで知りませんでした。「用務員さん」「警備員さん」というのはわかりやすいですが、もっといろいろな仕事をしている人がいて学校というところは成り立っています。私はひんぱんに支払請求書を書きましたが、まず、いろいろなところが故障します。プールなど、しょっちゅうどこかが壊れていました。しかも、どの部品はなんという名前で、どこのどれが壊れたらどこのどの業者に来てもらって直してもらうのか、あまりに複雑すぎて、私にはついにプールの全容はわかりませんでした。あとは、「教室のエアコンの修理」とか、「視聴覚教室の椅子の修理」とか、「体育教官室の製氷機の修理」にいたるまで、じつにさまざまな修理があります。修理だけではありませんが、とにかくたくさんの見積書、納品書、請求書を扱いました。こういう「やさしいことがたくさん同時進行で起きる」という職場は、徹底的に私に向いておらず(発達障害ゆえです。これだけ世の中に「発達障害」という言葉が出回っていても、配慮のない職場は徹底的に配慮などないのです)、この「総務」という仕事は、1年ちょっとやって2020年5月から休職を始め、ついに今月(2022年2月)、職を失うことになりました。それはともかく、このときに「11の倍数であるかどうかを瞬時に見抜く方法」というのは大いに役に立ったわけです。もちろん例外もあります。たまに「税込み1,500円」というものなどあってもダメですし、同じことですが、税抜き価格の一の位が0でなかったらダメです。もっと大きい可能性を挙げますと、税抜き価格がたまたま11の倍数であるというケースもあります(それで間違えた経験もあります)。でも、この方法はとても強力であり、かなり使える方法です。ちなみに、私が扱った金額は、高くて100万を少し超える程度でしたが、「偶数番目の桁の数の和と奇数番目の数の和」の差は、0か11のいずれかにしかなりませんでした。理屈の上では22もあり得るのですが、私が経験した限りでは22や33になったことは一度もなく、必ず0か11でした。これは経験則です。

 たとえば、『夫は成長教に入信している』(原作:紀野しずく、漫画:北見雨氷)というマンガの30ページで、主人公のコウキが、高い服を買ってくる場面があります。3着買ってきました。99,000円、147,400円、78,700円です。もう皆さんお分かりの通り、最初の2着はどうやら税込み価格ですが、最後のは11の倍数でなく税込み価格ではなさそうです。最初の服である99,000円というのは、作者も考えて税込み価格にしたと考えられます。9万円の消費税が9千円ですから。そして、147,400円というのも、考えたのかどうなのか、11の倍数であって、税込み価格らしいです(1+7=8、4+4=8、8-8=0)。暗算できなくはないですね、134,000円の消費税が13,400円ですから。しかし、最後の78,700円というのは手を抜いたな!ということが簡単にわかってしまったりします。おもしろいと思いませんか?「実生活で役に立つ数学の知識」。もっとも、その職場を私は勤まらなくて辞めて(辞めさせられて)しまうので、「役に立っていない」といえばそうですけどね(笑)。

 最後におまけ。7の倍数の見抜きかたを書いておきましょう。168という数を考えますね。一の位をaとします。ここではa=8ですね。そして、10で割って小数点以下を切り捨てた数をbとします。ここではb=16ですね。十の位より上を、一桁下げた数のことです。そして、aを5倍してbに足します。ここでは8×5+16=56です。これが7の倍数になっていればもとの数も7の倍数なのです。この場合は56が7の倍数なので、168は7の倍数であることがわかります。ちょっとこの方法は桁があまり小さくならないので、大きい数は何回も繰り返す必要があり、11の倍数ほど瞬殺ではありませんが、ひとつの手段ではあります。証明は演習問題としましょう。

 以上です!

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