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1+3+3+1=2×2×2

 (今日の算数・数学の記事は、小学6年生までの知識を前提とさせていただきますね。今日は2022年2月8日で、年度末なので、ほとんどの6年生は習ったことだと思います。内容はとくに珍しくない初等数学ですが、よろしければ、「数学は忘れた」と思っておいでの大人のかたにも楽しんでいただけるように書きたいと思いますので、よろしければぜひどうぞ。現役の中高生の皆さんのお役にも立てたら、と思います。)

 小学6年で、「何通り」というのを習ったと思います。たとえば、ドッジボールのチーム4チームが総当たり戦をするとき、試合の数は6回だとか。アップル、オレンジ、ピーチ、グレープの4本のジュースが1本ずつあるとき、そのなかから3本を選ぶのは4通りだとか。なにい忘れました?では、ちょっとおさらいからやりますね。

 ドッジボールのチーム4チームを、A、B、C、Dとします。チームがAとBだけならば1試合しかないですね。チームCが加わると、CがAとBの2チームと対戦するので2試合増えて1+2=3試合ですね。Dが加わると、残り3チームと3試合をするので、1+2+3=6で、6試合ですね。ほら、4チームが総当たり戦をするのは6試合になりますよね。ほかにも、以下のような図を描いても、6試合だということがわかりますね。線で結んでいるのが試合ですよ。線は6本ですね?

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 それから、アップル、オレンジ、ピーチ、グレープの4本のジュースから、3つを選ぶ場合の数を数えてみましょう。「ア、オ、ピ」「ア、オ、グ」「ア、ピ、グ」「オ、ピ、グ」で、4通りですね。あるいは、「選ばない1本を選ぶ」ということもできますね。「ア」と書いたら、アップル以外の3本を選ぶという意味です。こうすると「ア」「オ」「ピ」「グ」となって、やはり4通りだということがわかりますね。こういうは、重複して数えちゃダメだし、数え落としがあってもいけないし、難しいですね!(余談。私の修士論文では、先行する論文が、数え落としているのではないかというものがありました。それは、重複していてもいいけど、足りないのは非常にまずいやつでした。でも、先行する論文のどれよりも私の修士論文のほうが厳密だったし、それに、私が計算すると、どうしても「2A」というものがないと「足りなかった」のです。2Aは、先行するどの論文にもなかった。だから、私は先行する論文に疑問を投げかけていたのです!しかし、その論文はついに出版されることなく終わりました!その研究がさかんだったのは1999年ごろ、先行する皆さんの論文が出版されたのが相次いで2000年ごろ、私の修士論文提出が2001年の1月。それからまた21年以上もたってしまいましたからなあ。絶対に私の結果をうわまわる結果は出ていると思いますよ。くやしい!あまりにくやしいから2Aを以下に見せちゃう!とにかく「数え落としをなくす」ってすごく難しいのですよね、という話です。脱線おしまいです。)

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 さて、これらは、いくつかの異なるものから、いくつかを選ぶ場合の数です。4チームのドッジボールの例では、4チームのなかから2チームを選んで対戦させていました。4つのものから2つを選ぶと、6通りなのです。これを、突然ですが$${{}_4 C_2}$$と書かせていただきますね。$${{}_4 C_2}$$とは数を表しており、6です。つまり$${{}_4 C_2=6}$$なのです。($${{}_4 C_2}$$を二項係数(にこうけいすう)と言います。大学以降では$${\binom{4}{2}}$$と書くことは知っていますが、この記事では$${{}_4 C_2}$$と書きますね。)それから、4つの異なるジュースから3本選ぶのは4通りでした。これは$${{}_4 C_3=4}$$と書きます。わかりました?以下に少し例を挙げますね。

 $${{}_3 C_2}$$はいくつでしょうか?3個のものから2個を選ぶので、「AとB」「AとC」「BとC」で、3通りですから、$${{}_3 C_2=3}$$ですな。3人の人が全員と握手をする回数と言ってもいいし(3回です。3人のなかから2人を選んで握手させる)、平面上の3本の直線によってできる最大の交点の個数とも言えますね(下の図をご覧ください。2つの直線を選ぶごとに、交点が1つ決まりますので、交点は3つです。この例はわかりづらいですか?)。

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では、$${{}_3 C_3}$$はいくつか?これは、3個のなかから3個を選ぶので、それは1通りですね。つまり$${{}_3 C_3=1}$$です。それから、$${{}_4 C_0}$$はいくつか?0ですか?いやじつは違うのですよね。「4つのものからまったく選ばない」という場合が、1通りある!と考えるので、これは1です。つまり$${{}_4 C_0=1}$$です。ここまでよろしいでしょうか?

 では、$${{}_2 C_3}$$はいくつか?これはいけません。2つのものから3つのものは選べないから!このように、左の数より右の数のほうが大きいのはダメということにしましょうね。

 この「二項係数」というものを、以下のようにならべましょう。これを「パスカルの三角形」と言います。便宜上、$${{}_0 C_0=1}$$とさせてください。「三角形状に数が並んでいる」状態になります。以下をご覧ください。アナログ人間である私は、これも手書きで行きます。

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これを、実際に数字で並べると、以下のようになります。

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この図を見ていてなにか規則性はありますか?あ、左右対称ですね。よく気がつかれました。ほかには?両サイドは必ず1?そうですね、$${n}$$がどのような数でも、$${{}_n C_0=1}$$、$${{}_n C_n=1}$$ですからなあ。

 じつは、「左上の数と右上の数を足すと、必ず下の数になっている」ということなのですが、気がつかれましたか?つまり、上から5段目のまんなかの6($${={}_4 C_2}$$)は、その左上が3($${={}_3 C_1}$$)で、右上が3($${={}_3 C_2}$$)で、3+3=6じゃないですか!これ、この「パスカルの三角形」のどこを見渡しても、そうなっていますね!すごくないですか?

 もし、この規則性が正しければ、つぎの6段目は、以下のようになるはずですね。
1 5 10 10 5 1

なるほど、たしかに$${{}_5 C_1=5}$$ですね。$${{}_5 C_2}$$はほんとうに10ですか?5人の人が全員と握手する回数でした。5人から2人を選びますから。さて、$${{}_4 C_2=6}$$でしたから、4人の人が全員と握手する回数は6回でした。ここへ5人目が来て、4人と握手しますから、握手は4回増えて、6+4=10です。つまり$${{}_5 C_2=10}$$です!さて、この規則性、ほんとうに成り立ちますか?

 さっきの、4段目から5段目にかけてのまんなかの3+3=6のところで確かめてみましょう。4個の異なるものA、B、C、Dから、2つを選びます。それは6通りです。$${{}_4 C_2=6}$$です。さて、Dをすでに選んであるとしましょう。このときは、残り3つ(A、B、C)のなかから1つを選ぶので、$${{}_3 C_1=3}$$通りになります。それから、Dを選ばない場合を考えましょう。この場合は、残り3つのなかから2つを選ぶので、$${{}_3 C_2=3}$$となりますね。$${{}_4 C_2}$$っていうのは、この2つを足した数ですね。だから3+3=6になるのだ!これで規則性も説明できましたね!これを使えば、7段目を書いて、7段目は
1 6 15 20 15 6 1
になりますから、$${{}_6 C_3=20}$$なんていうことまでわかっちゃう!皆さんはまだ、「ア、イ、ウ、エ、オ、カの6個のものから3個選ぶのは何通りですか」と言われて、具体的に数え上げることしか知らないですよね。だからこの場合は「アイウ」「アイエ」「アイオ」「アイカ」「アウエ」…と、数え上げるしかやりようがないですよね。それが、「20通り」ってわかっちゃった!この「パスカルの三角形」を思いついた人はすごいですね。パスカルという人ですかね。すごいことを思いつきましたね!もっとも、なんでも最初に思いつく人は偉いですけどね。よく「なまこを最初に食べた人は偉い」とか言いますけど、パスカルも偉いですよ。

 さて、話を少し変えますね。このパスカルの3角形を、ヨコに足してみましょう。以下のようになります。これ、なにか規則性はありますかね?

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 上から計算結果を書きますと、




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となっていますね。2倍、2倍になっていますね。これも規則性でしょうか。

 ここで、小学生の皆さんが微妙に知らないことをご説明しますね。「累乗(るいじょう)」と言われるものです。$${4^2}$$と書いたら、「4を2回かける」という意味で、$${4×4}$$のことです。つまり$${4^2=4×4}$$です。$${4^3}$$は「4を3回かける」という意味で$${4^3=4×4×4}$$です。わかりました?つまり、$${4=2^2}$$、$${8=2^3}$$、$${16=2^4}$$ですね。$${2^1}$$は、「2を1回かける」って「1回かける」の意味がわかりませんが、これは2であると考えます。また、$${2^0}$$は、「2を0回かける」って「0回かける」はもっと意味が不明ですが、これは1であると約束します。つまりさっきの




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というのは
$${2^0}$$
$${2^1}$$
$${2^2}$$
$${2^3}$$
$${2^4}$$
となるわけですが、ほんとうにこんな規則性が成り立っているのですかねえ?
(ここで、「すでに知っている人へ思い出してもらう用」の解説を書きますね。$${(a+b)^4}$$を二項定理で展開したのちに$${a=1}$$、$${b=1}$$としますと、$${{}_4 C_0+{}_4 C_1+{}_4 C_2+{}_4 C_3+{}_4 C_4=2^4}$$が得られるのですよね。だから成り立つのですが、このことは「知っている人向けの解説」でした。)

 さて、$${{}_3 C_0+{}_3C_1+{}_3C_2+{}_3C_3}$$ってどういう意味でしょう?3個の異なるものア、イ、ウのなかから0個選ぶ場合(1通り)と、1個選ぶ場合(3通り)と、2個選ぶ場合(3通り)と、3個すべて選ぶ場合(1通り)を足したものですよね。つまり、3個のものから、いくつでもいいから選ぶ場合をぜんぶ足したものですね?それって、つぎのように考えられないでしょうか。

 アを選ぶか選ばないかで2通り。そのうち、イを選ぶか選ばないかで2通り。そのうち、ウを選ぶか選ばないかで2通り。これらのかけ算で、2×2×2通り。つまり8通りです。ほら!1+3+3+1=8とちゃんと同じ数になったではないですか!だから、これも偶然ではなかったのです。$${n}$$個の異なるものから、好きなだけ選ぶ場合の数は$${2^n}$$通りだったのです。

 というわけで、1+3+3+1=2×2×2、1+4+6+4+1=2×2×2×2というお話でした。たいしたことは言っていません。すみません。でも、なんでも最初に考える人は偉いので、やはりこれはたいしたことだと言わなければなりません。すごいですね!(現役の皆さんには、$${{}_{n-1}C_{k-1}+{}_{n-1}C_k={}_{n}C_{k}}$$のおさらいと、$${{}_nC_0+{}_nC_1+\cdot\cdot\cdot+{}_nC_n=(1+1)^n}$$のおさらいでした。「それは最近、センターで出たよ」とか言われても知りませんよ。私はセンターも共通テストも知りませんから。思い出した。私、高2のとき、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。遠くの異朝をとぶらへば、秦の趙高、漢の王莽、梁の朱忌、唐の禄山、これらは皆、旧主先皇の政にも従はず、楽しみを極め、諫めをも思ひ入れず、天下の乱れんことを悟らずして、民間の愁ふるところを知らざつしかば、久しからずして、亡じにし者どもなり。近く本朝をうかがふに、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、これらはおごれる心もたけきことも、皆とりどりにこそありしかども、間近くは六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申しし人のありさま、伝え承るこそ、心も詞も及ばれね」というのをぜんぶ覚えて喜んでいたら、これ高2のセンターで出ちゃったからね!そんなものです。)それではまた!

(※サムネは、私が2001年提出の修士論文で導入した、「色つきキルト分解」(colored quilt decomposition)というものです。これによって、私はその当時、とてもホットだった研究の話題に、最も厳密な証明を与えました。出版はされませんでしたが、ある共形場理論の先生の手にわたって、2004年ごろに引用されました。さきほど挙げた「皆さん『2A』が足りませんよ」という論文です。この絵を見て「だからなんなの?」と思われるかたがほとんどだと思いますが、だいたい数学の研究において、自分のやっていることが、曲がりなりにもしろうとさんにも絵を見せられる分野そのものがかなり珍しいです。数式の羅列を見てもわからないでしょ?だから、これを見ても、これがどれだけ画期的なのかは伝わらないわけですが、サムネにしてみました。)

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