自分のことはさておきひとの心配をしましょう

　聖書に、「医者よ、自分自身を治せ」（ルカ4:23）という言葉が出てきます。否定的文脈で出てきますが、自分のことは自分でできないんですよね。よく「まずは自分から」って言われますけど、じつは、自分のことが、いちばんできないですよね。

　自分で自分を励ますこともできません。ひとは励ませるんですけど。あるとき、ネットで晴佐久昌英神父様の説教を読んでいて、気づきました。晴佐久神父様は、それこそ人生のギリギリのところで苦しんでいる人に、「あなたは神に愛されている！」と言って、励ましています。でも、その日、神父様は、自分の歯が痛くて、どうしようもなかったのです。人生のギリギリの状態にある人と、歯が痛い神父。歯が痛いのは、たいしたことないことのようですが、晴佐久神父様も、自分で自分は励ませないのだな、と思いました。
　私自身の経験でもそうです。おととし（2018年）、絶望のなかで布団に入っていたとき、ときどき友人にメールを送り、友人を励ましていました。自分は絶望の淵にいても、人を励ますことはできるのです。

　自分で自分をくすぐっても、くすぐったくありません。ひとからくすぐられると、くすぐったいです。自分で自分をくすぐらせることはできないのです。

　私は、教師の経験があります。みなさんも覚えておられるかと思いますが、学校の先生って、「忘れものをするな！」と言って、ホームルームで、いばっています。では、学校の先生は、自分では忘れ物をしないのかというと、そんなことはなく、職員室ではひんぱんに教員どうしで、「あれはどうするんだっけ？」とたずねあっています。教師は、「勉強しろ！」と言いますが、自分では、じつは勉強していません。「医者の不養生」と「教師の不勉強」と「牧師の不信心」は、みんな同じようなもので、自分で自分は、どうしようもないのです。

　私は、誤字脱字を見つけるのが得意であることは、みなさんもご存じだと思います。それなら私本人は、さぞや完璧なのだろうと思うと、それがぜんぜん違っていて、私自身は、誤字脱字を、たくさん、やらかしてしまうのです。自分で自分は救えないのです。ひとのは気づくんですけどね。数年前、聖書協会共同訳の出る前の日本聖書協会に遊びにゆき、職員のかたとお話しする機会がありましたが、この話をしたら、そうなんだよね～、自分ではやっちゃうんだよね～、と言ってました。およそ１年後に出る聖書協会共同訳の紹介のパンフレットをくれましたが、「コヘレト」が「コレヘト」になっていました笑
　どうも、ひとの目におがくずがあるのは見えるんですけど、自分の目のなかの丸太って、見えないらしいですね。これは真理です。

　イエスさまも、ひとの病気や障害は、たくさん癒やしましたが、自分では、十字架から降りてこられないですよね。そういうものです。「他人は救ったのに自分は救えない」のです。あれ、イエスさまが本気を出せば、降りてこられた、って思っている人もたくさんおられますけど、私は、そうは思っていないですよ。あれは、ほんとうに、十字架から降りられなかったのです。自分で自分は救えないのです。

　今年（2020年）の９月ごろ、首相が変わって、「自助」という言葉が流行りました。でも、少なくとも私は、自助はできませんね笑。自分で自分は助けられないのです。だれかに助けてもらえなかったら、生きていけないですよ。

　よく、ひとの心配ばかりしていると、「まず自分の将来を心配しろよ」とか、言われたりします。私の友人にもいます。去年のいまごろ、過労で、一時的に精神に異常をきたした仲間がいるのです。私は非常に心配して、なんどもメールや手紙や電話をしました。しかし、いまや私のほうが、よほどひどい病気になって、長期に仕事を休み、深刻な状況にあります。まさに「まず自分の心配をしろよ」状態ですが、これが、人間の本来の姿なのです。それがわかってきました。

　みんな、自分の心配を棚に上げて、ひとの心配ばかりしています。いいんです。それで。自分の将来もわからないのに、日本の将来とか、世界の経済まで心配している人もいます。いいんです、それで。それで、自分の心配がまぎれるという効果があります。ひとの心配をすることによって、自分の心配が、まぎれるのです。これは、効果絶大だと思います。

　みなさん、自分の心配はさておいて、ひとの心配をしましょう！ひとの心配をしているあいだは、自分の心配を忘れていることができますから！自分が絶望しているときでも、ひとに、励ましのメールを送ることはできます。自分の歯が痛くても、人を励ますことはできます。「他人は救ったのに自分は救えない」って、裏を返せば、「自分は救えないけど、他人は救える」っていう意味ですからね。自分のことはさておきひとの心配をしましょう！

　ここまでお読みくださり、ありがとうございました。