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年子兄妹の悲喜こもごも~子ども達から学んだこと~

給食袋事件

月曜日の午後2時過ぎ。休み明けは子どもたちが学校に行くので昼間は一息つけるけれど、あっという間に時間が過ぎていく。

その日の授業は6時間目まで。放課後、習い事のサッカーがある6年生の息子は、練習グラウンドまで車で送らないと開始時間に間に合わない。5年生の娘も、この日はメガネ屋に行くことになっていたのでお迎えが必要だ。

息子のサッカーの着替えやボールなど、必要なものを車に積んでおこうと荷物を取りに息子の部屋に入った。

そこで、床に転がっている給食袋を見つけた。給食エプロンが入っていて、月曜日、学校に持っていかなければならないヤツだ。

やれやれ、忘れたのか。
昨晩忘れないようにさんざん注意したのに。

気づいたのが朝だったら、散歩がてら学校に届けただろう。でも、給食時間はとっくに過ぎている。

友達に迷惑をかけなかっただろうか。
先生に何か言われただろうか。

気にはなったけれど、その時間ではもうどうしようもなかった。給食袋がなくても何とかしただろうと、見なかったことにする。

そうこうしているうちに時間になったので、学校に向かった。

この時は、息子の行為が妹に影響を与えていたなんて、思ってもいなかった。

まさかの事態??

校舎の隣の駐車場に車を停め、車内で子ども達を待っていると、娘が息子よりも先に車に乗りこんできた。息子は近くにいた同学年の友だちと話していたので、少し遅れてやってくる。

「おかえり」

2人がシートベルトを締めて落ち着いたところで、エンジンをかけた。
早速私は息子に、給食時間に困ったのではないかと聞こうとした。しかしその前に娘が口を開いた。

「今日、給食の時にエプロンを着た時なんだか少し大きかったから、お兄ちゃんのだと思ってお兄ちゃんのところに持って行ったの。そしたらお兄ちゃんが給食袋忘れてたよ」

ん?
なんだかちょっと嫌な予感がする。

息子が娘の言葉を継いで言った。
「いやあ、俺、ラッキーだったわ。こういうの、ついているんだよね」

ええ??
もしや???

娘は、3階の自分の教室から1階の兄の教室まで給食袋を届けて、自分のものと交換するつもりだった。しかし、給食袋を兄に渡したら、自分の分がなくなってしまったのだ。仕方なく給食エプロンなしでその時間を過ごしたという。

息子からすると、学校に到着した朝の時点で担任に忘れたことを報告しているので、忘れた気まずさは味わっている。自分のミスのペナルティは受けているから問題ないといった感じだった。

さらに、給食時間には思ってもみなかったところから給食袋が届いた。それで「自分は運がいい」とおもったのだろう。

一方の娘はどうだったか。
兄に給食袋を届ける前に、副担任の先生に事情を話してから教室を離れた。給食袋を兄に渡すだけ渡し、手ぶらで自分の教室に戻った。副担任に一部始終を報告、副担任から担任に事情を説明してもらったそうだ。担任の先生からは「かわいそうに」と同情の言葉をかけられたとのこと。

娘は不便を被ったけれど、特に怒られたわけでもなかったせいか、ケロッとしていた。そもそもエプロンは自分のものではないから仕方がないという思いもあったのだろう。

しかし私は、息子が「ついている」と話を終わらせてしまったので、黙っているわけにはいかないと思った。
よく「判断に迷ったら自分よりも他人に優先するとよい」という考えを聞く。それを子どもに教えていなかった自分を親として恥じた。
同時に、息子が「妹が困るかもしれない」と思いをめぐらせなかったことに、娘に対して申し訳なく思った。

これはそのまま放っておいてはよくない。息子と何か話をしなければ。

オトナの考え

息子は「相手が妹だったから強く出た」というわけではなかった。けれど、ラッキーで済ませてしまっては彼のためにもよくない。

息子にどんな言葉をかけたらいいのだろう?
とっさに私の頭に浮かんだのは「今回は自分が我慢して、妹に持たせるのがよかったのではないか」という提案だった。

この私の言葉に、息子は不満を言うことはなかったけれど、「そんなもんか」とわかったような、わかっていないような態度。
息子のクラスの担任も、娘がクラスにやってきた時間に息子に声をかけたみたいだった。しかし、息子は「先生からなんか言われたけれど、その内容は忘れた」と言う(忘れるの、早すぎる!)。

逆の立場で、自分が持って行ったものを交換するつもりで妹に届け、自分のものがなかったならどうしたか尋ねてみた。残念なことに、そもそも届けるという選択肢がないせいなのか、あまり納得のいく答えはもらえなかった。
さらに振り返るタイミングを逃し、時間が経ちすぎてしまったので息子とはあまり深く話をすることができていない。
また「その時」が来たら話してみたい。

答え合わせ

その日の夜、仕事から帰ってきた夫に兄妹のこの話を報告。

私が息子に提案した「自分は今日はナシで過ごして、妹に持たせてやる」という選択肢は妥当かどうか、答え合わせをしてみた。

夫は、もし自分が兄のクラスの担任だったら、と前置きして「妹に今日は貸してやれ、と言うかな」と、静かに呟いた。

他の人の意見を聞いたわけではないけれど、多くの大人は「判断に困ったら相手のことを優先する」ことをよしとする気がする。

この文章を読んでいるあなたはどのように考えますか?

私は「相手のことを優先できる」のが大人になるということなのかもしれない、とふと思った。

幸い(?)妹は気にしていなかった。先生に共感してもらえたのが救いになっているんだろう。
けれども私は「息子の行動、それはないんじゃない?」という気持ちが強くてモヤモヤした。娘に「えらかったね、大変だったね」と目いっぱいねぎらいの言葉をかけた。

記憶の中の私

実は、今はエラそうなことを言っているけれど、私にも息子と同じような行動を選択した経験がある。今回のことで思い出した。

息子と同年代、私が小学校高学年の頃だったと思う。2つ違いの妹と2人でいた時に、彼女が困ったことになったのに助けなかった。姉である私も一緒についていたならば、きっと早く解決できたであろう場面なのに、当時の私は妹1人で決断することを期待し、先に家に帰ってしまった。

妹1人でも何とかなるかな、と思ってしまったのだ。
後から妹のことが心配になったものの、私は結局何もしなかった。親にも報告しなかったと思う。
幸い、妹の中でその時のことはそれほど大きな問題にならなかったようだ。でも状況としては、一歩間違えればきっと大きなトラブルになっていてもおかしくなかった。

オトナになった今だから、子どもには「相手のことを優先しよう」と言えるのかもしれない。
今回のことで息子を叱りはしなかったし、今後も叱るつもりはない。けれども小学生だった自分を振り返ると、叱るものではないなあと思う。

他の人のことも考えられるようになるのが「オトナになるということ」なのかもしれないと振り返っている。

娘の考え

ちなみに、娘に逆の立場だったらどうしたかを聞いてみた。
自分が給食袋を忘れた日に、兄から自分のものを届けられるものの、自分が給食袋を受け取ったら兄の分がなくなってしまうという状態。

娘は少し考えて
「先生に聞く」と言った。

そうくるかあ。
思わず心の中でうなってしまった。

自分の判断と兄の判断が違ったら、2人の間で結論を出すのは喧嘩になりそうだ。けれども第三者が入ればお互い納得いく答えを出してもらえそうだものね。

「迷ったら相手のことを優先」という判断を自分からすることは、子どもにとっては難しいことなのだろうと考えさせられた。

後日談

次の日の朝、娘は自分の給食袋を自分で学校に持って行った。2日連続だ。なんだか不憫に思えたけれど、娘はそれほど気にしていないようだった。

そしてこの話は一件落着したかに思えた。
しかし、3日後の木曜日に思わぬ貸しとなって娘に返ってきたのだ。

木曜日の朝は、私は登校班の見守り立ち番になっている。学校の手前にある横断歩道を渡るところまでついていき、そこで子ども達が安全に渡れるようサポートする。

横断歩道までの道を、いつも私は子ども達の後ろからついていく。この日、先を行く娘が歩きながら私の方を何回も振り返った。何か訴えたいことがあるのだろうと思って聞いてみると「体操服を持ってくるのを忘れた」という。

要は「お母さん、体操服を家に取りに行ってきて。あとから届けて」ということなのだ。けれども、私には立ち番というミッションがあるし、一度帰ってから学校まで届けるのもちょっとな・・・とためらった。

その時、以前息子が「友だちにレンタルできるように」と体操服を上下2組学校に置いていて、「今日は誰に貸した」などと自慢げに言っていたのを思い出した。

娘のすぐ後ろを歩いていた息子に、
「体操服、2枚学校にあるよね?妹に貸してやってくれない?」
と頼んでみた。

息子は黙々と歩いていた。いつもだったら「ええ、いやだ~」といった調子で塩対応。妹には厳しい場合が多いのである。しかしこの日はしばらくして「わかった」と一言。

私は、もし息子に拒否されたら月曜日の「給食袋のこと」を言おうかと思っていたのだけれど、彼自身もそのことが頭にあったのだろう、すんなり貸すことに同意した。

この時ほど、「情けは人の為ならず」を実感した瞬間はない。


子ども達から学んだこと

「判断に困ったら自分のメリットではなく相手のことを優先する」
大人になった今、そんな選択をしたほうが、何事もうまくいくことがわかる。

それを教えていくのが大人の役目なのかもしれない。

最近私が子ども達から学んだことである。



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