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映画で人生は変わるのか?

「好きな映画って何?」と聞くこと。

「好きな映画って何?」めちゃめちゃポピュラーな質問だが、かなり危険を孕んでるとも思う。

特に、クリエイティブ系の仕事に就いている自意識過剰な若者(かつての私とか)にとっては、「お前の感性なんぼのもんか言ってみろ」くらいに変な重みを醸す質問だったりした。文化的偏差値みたいなのを、そこで勝手に測られちゃうんじゃないか?

「はぁー、なるほどそっち系ね、そんな感じね」

そう思われそうで、苦手だった。ちょっと前までは。

流石にアラフィフともなると、開き直りという名の自己肯定力が備わってくる。「コレ本っっ当に好き!」と素直に言えるのは、ありがたいことだ。

長くなってしまったが、そんな私の現時点でのベスト3本は以下です。

①ゴッドファーザー三部作

②地獄の黙示録

③黒いオルフェ

いずれも相当語り尽くされてもいるし、考察とか蘊蓄とか、作品の文化的背景みたいなことはググればいくらでも優れたレビューが出てくる。

ゆえにここでは、超個人的な思い入れだけを語りたい。​

③黒いオルフェ

オールブラジルロケの古いフランス映画。結構雑な作りだし、役者さんもほぼ全員素人だし、何よりフランス人が勝手に考えた「ザ・ブラジル」をブラジルの人たちに押し付けてる感もある。映画として欠点も多いんだけど。何か奇跡を目撃している気持ちになる。

とにかく毎回オートマティックに泣く。何の涙だかわからないが、生きているって素晴らしいなと思う。同時に、死への恐怖がほんの少し薄らぐのだ。観た後に、死への恐怖が少しでも薄らぐ作品て、ものすごい成功作なのかもしれない。

②地獄の黙示録

30代の頃、リバイバルで鑑賞。会社をサボって同僚と見にいったんだけど、腰が抜けてフラフラになり、もう全然仕事が手につかなかった。

「人間てそんなに理路整然とした生き物じゃないんじゃないのか?ドロドロした生命の塊みたいなおぞましいものに、薄皮一枚の理性をコーティングしてるだけなんじゃないのか」と薄々感じていた若き日の自分に、やっぱそうじゃんと確信を与えてくれた一本。

未見の方は、体力のある時に観てほしい。腰が抜けるから。

①ゴッドファーザー3部作

それなりにいっぱい映画を観てきたが、何をどうしてもゴッドファーザーの座が揺らがないことに、我ながらビックリ。

家族、愛、仕事、欲望とプライド。何よりもこの矛盾だらけの現世を、誰かの奴隷にならずに生き延びていくこと。

「人生に必要なことは全部ゴッドファーザーで描かれてる」みたいなセリフが別の映画にあったけど、本当そうだと思う。

個人的には、コルリオーネ3兄弟の描写に感情移入。私も兄と妹がいる3人兄弟なのだが、兄は短気で直情的、妹は冷静で現実的だ。じゃあ真ん中の私はフレドか!と思うと切ないが、なんかちょっとフレドの気持ちわかる。家族のノリに入り込みきれないんだよね、中間子って…

夫と仲良くなった最初のきっかけも、お互いに「ゴッドファーザーオタク」だったから。

出会った頃の夫と私は、一見すると全然違うタイプだったのだが、付き合っていくうち、考え方や価値観が、驚くほど似ていることが徐々に判明。

あっ、ベストワン映画が一致してるって、そういうことなのか!と妙に納得した。

「好きな映画は何?」という質問は、やっぱり人生を変えるパワークエスチョンなのかもしれない。

気になる人には、勇気を出して聞いてみてほしい。その答えでわかるのは、文化的偏差値なんかじゃなくって、その人が「人生で大事にしていること」だと思うから。


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