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風と音と室外機

階段をのぼると小さな花屋がある。そのとなりに、高低差を利用した広さ約6畳の小さな森。きっと建物を作るときに植え込みも整備したのだろう、建物の年齢と植え込みの年齢が釣り合っているようにみえる。

2本の木は大小のホールケーキくらいの太さで、幹にはツタが数本だけ這っている。まだ花屋の壁ほどではないけれど、これから木はもっとツタに覆われていくのだろう。地面からは大きくなった木の芽が葉を茂らせ、太陽の光をもとめてわさわさと広がろうとしている。人が植えたものではない、木々が自ら芽吹かせた新しい命。

エアコンが作る風も、ひとたび部屋の中に吐き出されると、あとは自然の空気とまじりあってどれがエアコンの空気でどれが自然の空気か見分けがつかない。室外機の風はなおさらだ。人工の風が、人工の小さな森の中で自然の風に溶け、自然に生まれた命を揺らす。

木陰で鈍くうなる室外機は、暗い森を抜ける風なのかもしれない。人工と自然の境界が消え去り、あとには止むことのない風の音。暗い森の中、みどりはますます爽やかに逞しく。

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