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万年筆のインクの取り換え方



万年筆のインクを取り換える。

万年筆のインクを取り換えるのは、別に難しいことじゃない。特に資格とかも要らない。しいていうなら、万年筆とインクが手元にあること、それだけだ。

ピストンをゆっくりと下ろしていって(たまに右回しだったか左回しだったか迷う)、今使っているインクをまずはインク瓶に戻す。一度でも空気に触れさせた以上若干インクの成分が瓶の中のものとは変わってしまっているので、一度万年筆に入れたインクを瓶に戻すのはあまりよくないという人もいるが、私は貧乏性なのでいつも瓶に戻している。このへんは自己責任でどうぞ。

すべて戻しきったら、ペン先をティッシュペーパーで軽く拭き取る。インクがじわっと大げさに染みを作るけれど、恐れなくてもいい。
さて、きれいに拭き取ったなら水道へ向かう。そうだ、最初の条件のところに水道が近くにあることというのを足しておきたい。ちなみにカートリッジ式の万年筆の場合はこれに準じないが、手入れの面を考えて、やはり万年筆を使う以上は、近くに水道があったほうがいいだろう。
水道へ向かって、まずは小さなコップに水を注ぐ。それを一気に飲み干す。いや、飲まなくてもいい。のどが渇いていたなら、飲んでもいい。水の量はあまり多くないほうがいい。結果を先に示してしまうと、これから万年筆のペン先をコップに浸すのだ。ということで、水の量はペン先がまるごと隠れる深さであればいい。
ペン先を水に浸して、下ろしていたピストンを再び上げる。つまり、水を吸い上げるのだ。吸い上げきったら、またピストンを下ろして、インク色に染まった水を吐き出す。水を吸い上げ、吐き出す。これを何度か繰り返して、吐き出す水が透明になるまで続ける。もちろん適宜水を奇麗なものに取り換えながら行ってください。
インクがすっかり抜けたなら、万年筆を軽く振って水滴を飛ばし(くれぐれも落っことしたり、ペン先をどこかにぶっつけたりしないように。涙が出ます)、ティッシュや柔らかい布でしっかりと水けを取る。これで洗浄は完成。あとは一日くらい乾かしておけばベスト。ペン先がしっかりと乾いたら、また新しくインクを吸わせます。終了。お疲れさまでした。



私が生まれて初めて自分の万年筆を買ったのは、だいたい十年位前にさかのぼる。
ペリカンの青い透明な万年筆だ。確かM205だったと思う。当時の私には(そして、今もちょっと)筆記具に一万円も出すなんて全く考えられなかった。けれども買ってしまった。そして、今でもずっと使っている。
吸引式(ピストンでインクを吸い上げる機構のことをこう呼びます)なんて難しそうだ、と当初は思っていたのだけれど、実際使ってみると逆にとても楽だったので驚いた。
例えば万年筆は長期間使わないでいるとどうしてもペン先が渇いてしまうので、放置する前にインクを抜いて洗浄しておく必要があるのだけれど、吸引式ならば、前述の通りインクを瓶に戻せばいいので、使いかけのインクを無駄にすることは無い。
さらに、私の使っているペリカンの万年筆は、ペン先の部品が簡単に取り外せる。なので自己責任において取り外して簡単に丸洗いをすることが可能なのだ。こういう所が楽でいい。



ターコイズブルーのインクを吸引して、クリーム色のノートの上にペンを走らす。鮮やかな水色が、やわらかな紙の上によく映える。東北の春はまだ寒くて、しばらく綺麗な青空を見ていない。あたたかな日差しと真っ青な空を思い描きながら、私は今日も万年筆を手に、机に向かう。

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