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本で満たされる長い長い夜の怪物 

 国立駅から徒歩で国立本店へ。店番のMARIさんにあたたかいコーヒーを淹れて頂いて、不思議な絵本「の」(Junaida/福音館書店)をめくってみる。めくってもめくっても「の」で繋がっていく世界に驚きながら、繊細で可愛らしい絵にワクワクしてめくり、中盤は緻密さ繊細さに驚きながら、終盤は「どこか遠くへ来てしまったな」と旅先の不安みたいなものがある。最後まで読んで、ほっと一息つく。今度はふと目に入った「帽子作家 Tami's Spirit -こころが動きだすヒント-」(更谷 いづみ/Izumaqui)を手に取る。ちいさなころ、迷い込んで通った道に帽子アトリエがあったことを思い出して、写真と記憶が重なる。何度か前を通って、おとぎ話に出てきそうだと思いながら、一度も入ったことがなかった。数ページめくって、この本は後日購入しようと決めた。一時間ほどゆっくりMARIさんとお話をして、場があたたまったベストなタイミングでMARIさんがお薦めしてくださったのが「本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~」(香月 美夜)だった。本が好きの主人公が死んでしまって、転生したのは、識字率が低くて本が少ない世界で…というあらすじを聞いて俄然興味が湧いてくる。小説家になろうのサイトで読めると聞き、読むことを決意する。とても楽しい時間に名残惜しくもありつつ、次の書店へ。
 三日月書店を覗きこむ。眼鏡をかけた店主が奥で座っている(きっと今後、名前もお伺いするのだろうけれど、まだ知らない)実は三日月書店は入るのに勇気がいる。知らない国の料理屋さんに入る気分になるのだ。以前入ったことはあり、選書がとてもいいし、哲学や社会学、エキゾチックな本や、自分の知らない分野の本がたくさんある。今日は閉店前ギリギリでもあるし、また明日以降来よう。
 旧駅舎の前でピアノに耳を傾けつつ駅中のnonowaへ。ロフトでヘアオイルとベースアイシャドウを買う。ねこっけ+うねる髪質の人向けで、匂いはアップル。少し甘すぎる気がするけれど、指通りが良くなったので触りごごちで決めた。ベースアイシャドウはキャンメイクの550円とエクセルの1100円で悩んで、気合を入れて1100円の方にした。
 国立駅から矢川駅行きのバスに乗って、富士見台第一団地の前で降りる。降りてすぐの富士見台トンネルは「トンネル酒場」がinstagramには19時からと書いてあったけれど、まだ開いていなかった。
 今夜は小鳥書房も「良夜(あたらよ)」をやっているはず、と行ってみる。お店の前でことねちゃんが準備していた。挨拶をしてドアを開けると、かよこさんとゼンさんがあたたかく迎え入れてくれた。ほっとしていると、すぐ後ろから男子高校生五人組が入ってくる。かよこさんと男の子が親しそうに話していて、「おかけん」という単語が飛び交う。桐朋学園の「オカルト研究会」の方々だった(私の母校で「おかけん」は「お菓子研究部」なのでオカルトだと気が付くのに時間がかかった)。一人一人とても丁寧な高校生で、かよこさんと「オカルト研究会をオカルト研究”部”にするにはどう実績を積めばよいか」など真剣に話していて、私自身の高校生活を思い出し勝手になごんでいた。会話からお化け好きに贈るエンターテイメント・マガジン「怪と幽」(KADOKAWA MOOK)の存在を知る。19時30分になったので富士見台トンネルの様子を見に、小鳥書房を退店する。
 19時40分、富士見台トンネルに10人ほど入店していくのを目の当たりにする。しまった、と思った。私含め3人が入店できなかった。どうしてもスパイスアップのチャイが飲みたかったので、店員をしていたクナーファ屋のしゅうくんにお願いすると「20時30分ごろであればテイクアウトできます」とのこと。店内で晩御飯を食べるつもりだったけれど、諦めてご飯を求め谷保を彷徨う。
 お腹が空いてしょうがないので、ネパール料理屋フルバリへ。店長のマニさんは不在だった。普段はフルバリセット(マトンカレー/辛口/ナン/食後にホットチャイ)を頼むけれど、今日は後でスパイスアップのチャイも飲むし控えめにしようかな……と悩む。セットではなく単品でドライカリーのチキンチリカリーと、ネパール料理のモモ(餃子や小籠包みたいなもの)を頼んだ。するとマニさんが登場。にこにこしながら「ホットチャイ飲みますか?」と言ってくださって、単品で頼んだチキンチリカリーにサラダとライスとホットチャイまでつけてくださった。チキンチリカリーのガーリックが濃くて美味しい。満腹に食べさせて頂いて、また来ようと感謝しつつ、20時30分が近づいたので富士見台トンネルに戻る。
 富士見台トンネルに戻ると、テイクアウトの予約をしたチャイ2つをスパイスアップの岩井さんから受け取る。岩井さんとは「みんなのコンビニ」のバックヤードでメッセージを送ったことがあり、対面でご挨拶したのははじめてだった。美味しいチャイをいただくのは2回目で楽しみ。国立本店室長の加藤さんに来期くらいから本店のメンバーになりたいと思っていることを伝える(なんだか恥ずかしくて今まで言えていなかった)。谷保のネオおばあちゃん家の日下さんもいらっしゃって、ご挨拶。今夜は大集合しているなあと思いながら退店する。
 チャイを片手に小鳥書房に戻る。かよこさんにチャイをお裾分けして、ひたすら本を読みながら常連さんたちとお話する。50年前のカリフォルニアの古本が面白くて、タイトルをメモしておけばよかった。「ふたりのアフタースクール〜ZINEを作って届けて、楽しく巻き込む」(太田靖久・友田とん/双子のライオン堂)を開いたら面白そうで買いそうになりつつ「これはもっとZINEを作ってから読もう」と本棚に戻す。「ZINE作りの参考になる本を探しています」と伝えると、ルタオさんが「校正記号の使い方-第2版-タテ組・ヨコ組・欧文組」「日本語表記ルールブック-第2版」(日本エディタースクール)を薦めてくださった。この2冊に「入稿データのつくりかた CMYK4色印刷・特色2色印刷・名刺・ハガキ・同人誌・グッズ類」(井上のきあ/エムディエヌコーポレーション)を購入する。かよこさんがチャイのお礼にと広島産レモンのパウンドケーキを分けてくださった。たぶんゼンさんの手作りで、柑橘類、特にレモンが好きなので嬉しかった。サッパリとした初夏の味だった。映画やお笑い、交換日記、デザイン、マッチングアプリ、短歌……とりとめのない各々の好きな話をしていたら23時近くなる。みんな終電に合わせて谷保駅へと向かい、帰路に着く。
 良夜が終わって小鳥書房を出る時いつも(はたして最後までお店に残るかよこさんは今夜ねむれるのだろうか)と思いながら退店する。このことは、この長い長い一夜を最後まで読んでくださった方にだけ。本屋夜話のラジオを聞きながら、眠れない夜を乗り越えるnoteでした。おはようございます、おやすみなさい。

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