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(本屋のエッセー:7)あれもしたいこれもしたいもっとしたいもっともっとしたい、という話(後編)

2022.10.4

あれもしたいこれもしたいもっとしたいもっともっとしたい、という話(後編)

 肉から顔を上げると、バイクも一緒に乗るし酒もよく飲む仲良しのCちゃんがいた。
「あら偶然ね!今から私達キャンプに行くんよ!一緒に行く?」と唐突に私。
「……明日学校だよ?」と一瞬迷った顔をしたが、次男と同級生の娘ちゃんを持つ彼女は当然のツッコミを入れた。そりゃそうだ。また今度行こうね、と軽く約束してスーパーを後にした。
 さぁ、そろそろ暗くなってきた。テントをたてなければ!5分もあれば着く、家よりも小学校に近い貸し切りのキャンプ場でのソロキャンプ、いやセミソロキャンプ……じゃない、ただの親子キャンプが始まった。
 灯りは一つしかなかったが、ビール片手に何とか適当にテントを建て、寝袋を敷いて、外にテーブル、料理はカセットコンロにフライパンで肉とアスパラを焼くだけの本当にミニマルなキャンプだ。メインイベントは焚き火で、アウトドアの焚き火台なんか持ってないので七輪を持って行った。息子にバーナーを渡して焚き火の番を任せた。息子は直前に「読んどいて!」と母が渡したキャンプの本に書いてあった、焚き火での薪の置き方の色々を試して教えてくれた。小枝もせっせと拾って運んできてくれるし、えらく助かる。自動的に焚き火が楽しめて、こりゃ一人でキャンプするより楽しいな。ビールがうまい。
 やはりしかし、まだ夏の残り香、飛んで火に入る夏の虫。蚊が多かったのと、息子の手のひらサイズの蛾がフライパンに飛び込んでまとわりついてきたのには、野生児の息子も嫌がった。私はといえば、蛾は飛び込んだものの肉は焼けば食べられると意に介さず、蛾を一旦棒で挟んで焚き火に入れたが、途中でかわいそうになったのか外に出してあげた優しい息子に対し、「半殺しの方が可哀想だ。いっそ火にくべておしまいなさい。」とアドバイスして火の中に戻させ、二人で「ごめんなさい。」と手を合わせたのだった。フライパンには蓋が要る。
 流れ星を見に行こうと少し散歩をしたが、あいにくの曇り空。
「知ってる?流れ星が流れてる間に願い事を3回言うと叶うんだよ。だからママは『金!金!金!』なら間に合うと思うんだ〜。」と得意げに私が言うと、
「それなら俺は『運!運!運!』だ。運が良かったら何でもいける。」と息子が言うので感心するとともに、「金」と言った大人の汚さに何だか恥ずかしくなった。もし今度流れ星を見たなら、私も「運!」と3回言うことにしよう。
 薪も無くなってきたことだし、そろそろ寝ようかとテントに入ったところ、頼みの綱のライトがフッと消えてしまった。もともと調子が悪く、付いたり消えたりしていてとうとう壊れてしまった。とちょうどその時、先程スーパーでたまたま会ったCちゃんから電話がかかってきた。
「何してんの?」とCちゃんが聞くので、
「そりゃキャンプだよ。ライトたった今壊れた。肉余って腐りそうだから取りに来る?」と言うと、5分後にライトを持って本当に来てくれた。突然キャンプをする私も私だけど、本当に覗きにくる彼女も彼女である。何から何までタイミングが良い。大人になってこんな友達ができるなんて夢にも思ってなかった。一通り焚き火と酒とカップラーメンを楽しんだあと、帰るというので見送ると、「私は絶対一人でキャンプとか嫌だ!」と言い捨て、暗がりで派手に転んで帰って行った。そういえばさっき娘ちゃんも斜面ですっ転んでたな。それに付き合わされた旦那さんも大変だったろうな……肉をあげたからまぁいいか。嵐が過ぎ去った後、息子は3秒で寝た。私はというと虫歯が痛んで、次はソロキャンプじゃなくて歯医者に行こうと決意して浅い眠りについたのだった。
 翌朝、気持ちのいい朝。コーヒーを淹れてゆっくりしていた。が、歯ブラシを忘れてとにかく口の中が気持ち悪い。小学校には直接送って行こうと思っていたのだけど、時間もあったし話し合って結局家に帰って歯磨きをすることにした。そのまま息子は何事もなかったように通常通りバスで登校。
 大満足の初ソロキャンプ、じゃなくて親子キャンプ。息子もとても楽しかったようだが、反省点を聞いたところ一言。「アルミホイルで包んだ芋が欲しかった。」うん。次は芋を持って行こう。お後がよろしいようで、約12時間の親子キャンプは無事終了と相成ったのであります。

(終)

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