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展覧会「二人だけの国」
エモいという言葉がちょっと苦手だ。
日々ヤバイ!!! を連発している私が言えたことじゃないが。
便利な言葉は便利すぎて、スマホやパソコンに頼りすぎていつの間にか漢字が書けなくなっているように、微妙な心の機微をどんどん言語化できなくなっていきそうで怖い。
しかもこの新しい言葉が発明された頃には、すでに心の加齢によってエモを感じるアンテナが弱り切っていたため、特に使う場面もなかった。
そんな私でもこれが「そう」なのか……と分かる展覧会があった。
2018年の夏狂ったように通い詰めた、田中良佑さん・齋藤はぢめさんというアーティストの展示「二人だけの国」について、言葉を尽くして書いてみたいと思う。
展示ステイトメントを読むと分かるが、お二方は数年前お付き合いをされていたが展覧会の企画がはじまった時点ですでに破局している。
タイトルの「二人だけの国」は田中さんがよくカラオケで歌っていた曲・スピッツの「ロビンソン」からだ。
(いや、よく歌っていたような気がしたけど展覧会に際して本人に聞いてみたら実はそうでもなかった、と言っていたかな?)
付き合っていた時のことを思い出しながら作品を作るというのがこの展覧会の趣旨である。
だから「二人だけの国」は今はもうなくて、でもずっとそこにあるのだ。
“あの頃” は、この先 私たちが死ぬまで、誰を愛して、誰と別れたとしても、私たちに向かって何かを呼びかけ続ける。
(齋藤はぢめ「展示ステイトメント」より)
「エモい」という言葉を取っ掛かりにして紹介してしまったが、お二人、特に齋藤さんの作品の作り方は感情に振れすぎず、理性がしっかり造形や表現をコントロールしていて素晴らしかった。
特に好きな3作品は
①付き合っていた時に撮ったビデオと同じ場所で二人で同じことをしているビデオ、という映像作品。
同じことをしているのにもう同じ距離感や関係性ではない。
田中さんがスピッツのロビンソンをカラオケで歌う映像もあり、それが展覧会会場に響いていると胸がきゅっとなった。
②付き合っている当時一緒に買った直径1mほどの小さなレースカーテンの天蓋を被って、夜の中で二人が躍る映像作品。
こちらはヘッドホンで音を聞けるようになっており、静かな音楽と二人が時折小さい声で話したり笑ったりする音が聞こえる。
私は今これを打ちながら思い出して泣いている。
③不完全な形のスノードーム。誰も触れない「あの時」がキラキラしたまま閉じ込められているようで、作家さんの具現化の力を見た。
買えば良かった。
だからこの展示を思い出すと、スノードームの中二人が躍っているイメージが立ち現れる。
私事だが、これまで私はまともに人と恋愛をしたことがなかった。
今は既婚者だけど今の夫と会うまでは誰かを好きになったことが本当になくて、
・告白されて試しに付き合ってみたがやっぱ数日で無理×2
・告白されて試しに付き合ってみたが数日で相手にやっぱ無理と言われる(今思えば腹立つ)×1
なので私は「二人だけの国」を持っていない。
好きな人と別れるのは、ブッダも愛別離苦と言うくらい辛いことだから、経験しなくて良いならしない方が良いのかもしれない。
だけどもお二方が見せてくれた二人だけの国は涙が出るくらい美しくて、世の中の人たちがこういうものを胸に抱えて生きているなんて、なんて羨ましいことだろうと純粋に思った。
特別だよ・と鍵のついた宝箱を開けて見せてもらったその中のキラキラが忘れられず、この年は夏が終わってもずっとロビンソンがリフレインしていた。
それくらい心に残る展覧会だった。
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